「夢中になる時間と競技は人生の一部という大きな視点、両方を持ってほしい」為末さんが語るセカンドキャリア クライミング協会会長と対談
為末「スポーツは三角形で表現すると、トップの選手を引き上げることと、裾野を広げることがあるんですけど、日本のスポーツは裾野を広げると外の人に良い効果を与えるという部分が弱く、三角形がどんどん縦長になるんですね。内と外をきっちり分けようともします。大事なのは境目を曖昧にして、どう運営していくか。これを担う人材がビジネススクールから出てきてほしいなと。(少子化の)子どもたちの取り合いをするんじゃなくて、競技の壁を外して、自分に合うものとか好きなことをさせる文化にしなきゃいけないですね」 ―為末さんの意見を丸さんはどう生かせるか。 丸「子どもにクライミングの壁を触る機会をもっと広げたい。今はクライミングジムに頼っている部分があるので、協会としてサポートできれば理想的なんですけど。基本的に(ジムは)民間企業で、小さな自営業者としてやっている方々が多いので、サポートしていかないといけない。何とかできないかなということは常に考えていますね」 ―クライミングは若手が続々と世界で活躍している。為末さんも若い頃から注目を浴びたが、選手として大事なことは。
為末「幼少期に注目を集める競技はバランスの取り方がすごく難しくて、宝くじに当たった人の心構えみたいな本がいるんだと思います。親からすると、子どもがいきなりすごくなってどうしていいか分からないし、守り方も分からない。だから、まず何が起こるんですよ、みたいなことが一通り分かる事が大事。選手自身も長い目線で見ていくことがとても大切ですね。競技人生が長くなると、モチベーションが消えたら終わり。競技をやりたいのか、やらされているのか。最初から楽しんでやる人間が強いですよ」 ―“金メダルを取ります”などとインタビューで公表する際の心境は。 為末「自分にはっぱをかける側面もあるし、言い過ぎちゃったなというのもありますよね。ちょっと自信ないけど、つい言っちゃった、みたいなのもあるし。自分は比較的できそうなことを言う感じだったんですけど、選手が追い込まれるのは、自分ができそうなことと世間の期待のずれなんですよね。期待値を上回る状態を保つ、この期待値コントロールがすごく重要ですね。私は五輪のメダルは欲しかったけど取れませんでした。陸上はしつこくやったなという印象があって、『ああ面白かった』という感じはありました。それは競技をやりながら周囲からいろんな刺激を受けて、引退後の人生で模索しながらやりたい事が定まってきたからだと思います」