10月の衆院選は「無効」…“4人の弁護士”が国を提訴した理由とは? 「“一票の格差”より深くて広い問題がある」
比例代表選挙の「重複立候補」も「国民のためになっていない」
今回の訴訟では、比例代表制の違憲無効(憲法43条、14条等違反)も主張されている。 三竿弁護士らのグループが主張する問題点は以下の2点に集約される。 ・11のブロックの定数配分を「アダムズ方式」(前述)によって行っている ・小選挙区との「重複立候補」「復活当選」の制度に合理性が乏しく、選挙人の投票意思を歪める 前者の「アダムズ方式」による定数配分については、小選挙区制度と同様の問題が指摘される。 これに対し、後者の「重複立候補」「復活当選」の問題について、森徹(もり とおる)弁護士は「真に国民の利益のための制度になっていない」と指摘する。 森弁護士:「小選挙区制度で当選できなかった人のための『失業対策』のような制度として機能してきている。 自民党は今回、重複立候補が認められず落選した候補者が多いが、それでも結局、小選挙区で落選した候補者のうち73.8%が比例代表で復活当選している。 比例代表制は本来、各政党の政策、候補者名簿の順位が明確になっていなければ、投票する有権者の意思と結果とが合致しないはずだ。 それなのに、同一の小選挙区内での得票が当選者の何%だったかという『惜敗率』によって、比例代表選挙での当選順位が決まるという、投票者の意思が反映されていない、合理性のない操作がされている。
重複立候補できる政党・候補者が有利な仕組み
森弁護士はまた、「重複立候補」「復活当選」の制度には、政党・候補者ができる選挙活動の範囲についての不平等が生じ、それが結果として民意の的確な反映を妨げているという問題点があると指摘する。 森弁護士:「重複立候補が認められているのは候補者届出政党(※)の候補者のみだ。 候補者届出政党から重複立候補している候補者は、そうでない候補者と比べ、小選挙区と比例代表の両方で規模の大きい選挙運動ができる。 政見放送が認められているし、選挙カーやスピーカーの数等も違う。 重複立候補できる人のみが、そのようなツールを使ってオープンに有権者に訴えかけることができるというのでは、フェアな選挙といえない。結果として選挙人の選挙権の行使を侵害するものだ」 ※「①所属する国会議員が5人以上」「②直近の国政選挙での得票率が2%以上」のいずれかの条件を満たす政党 議会制民主主義が健全かつ正常に機能するには、それぞれの国会議員が国民の意思をできる限り的確に国政に反映させるよう努めなければならない。その前提として、民意を反映させるにはどのような選挙制度が望ましいかという問題がある。 衆議院議員選挙の「小選挙区比例代表並立制」が導入されて30年以上が経過し、私たちの間にすっかり定着したかに見える。しかし同時に、本件訴訟のテーマである「議員定数配分の不均衡」のほかにも、小選挙区制で必然的に生じる「死票」の問題(※)など、様々な克服すべき課題を抱えていることも事実である。 どのような選挙制度も「完全」ではあり得ない。民意が的確に反映されなければ、いずれその報いは私たち国民の不利益となって返ってくる。私たちは常に、憲法が国会議員を「全国民の代表」と定めた原理原則とその意味に立ち返り、選挙制度のよりよい「あり方」を問い続けなければならないだろう。 ※その票を投じた有権者を代表する当選者が存在しない票
弁護士JP編集部