“実家の味”いつでも、いつまでも…卒園生に「給食パスポート」 春日部の児童養護施設、子への思い形に
有効期限は「好きな時まで」―。児童養護施設を運営する「子供の町」=埼玉県春日部市西金野井、斉之平伸一理事長(75)=は、卒園生も園の食事を無償で味わえる「給食パスポート」を手渡している。「一人じゃないよ」「困ったら思い出して」。そんなメッセージを込め、虐待などさまざまな事情から親を頼れない子どもを支援している。斉之平理事長は「子どもたちにとってここは実家。困ったときはいつでも相談に来られるきっかけを作りたい」と話す。 「こまち(子供の町)のごはんの味。懐かしみを感じた」。4月下旬、かつて同室で過ごしていた卒園生の女性3人が園の食卓を囲んだ。この日のメニューはカルボナーラ、チキンボーン焼き、レタスサラダ、フルーツ。ボリュームたっぷりの給食をおいしそうに食べながら、会話も弾む。 「コミュニケーションが苦手だけど、小学生の頃から夢だった電車の駅員さんになりたい」と話す女性(18)に斉之平理事長は「十分可能。今お客さんから喜ばれて丁寧な仕事しているんだから」と声をかける。別の女性(19)は職場での人間関係のストレスを伝え「つらい時に園のごはんを食べると『あーこれこれ』ってなる」とにっこり。「人間が怖い」と話す女性(19)も「おなかいっぱい」と照れくさそうに笑った。
給食パスポートは、コロナ禍で卒園生が疎遠になり、コミュニティーが途絶えた経験から2022年3月、「食を通じて何かできないか」と職員の大井隆二さん(65)らが中心となって発行した。 これまで約30人が利用し、約50食を振る舞ってきた。基本的には事前予約制だが、「ぜひ食べてもらいたいから」と連絡なしの当日来園にも対応。当初は夕食だった時間帯も、利用者からの希望を受けて昼食も可能とした。在園生と同じメニューで、喜んでもらおうと栄養面だけでなく食事の色合いや見た目も重視。卒園生にはパスポートのほか、約50ページに及ぶ園で食べたメニューの調理や食材のアドバイスも記載した1年間分のレシピ本も渡している。 子供の町は「子供の町」と「エンジェルホーム」の二つの児童養護施設を運営。4月30日現在、2施設を合わせて3~19歳の104人の子どもたちが入所している。入所理由は虐待や貧困、ドメスティックバイオレンス(DV)、精神疾患などさまざまな要因が絡み合う。