厳しく罰せば、更生できるのか? 見直すべき「受刑者」との向き合い方
私たちは変わっていく
――『プリズン・サークル』で印象的なのが、受刑者が互いの過去をじっくりと聞きあう姿でした。 【坂上】受刑者に限った話ではなく、私たちの多くが自分の言葉をしっかり聞いてもらったという経験は少ないのではないでしょうか。私の場合は息子に多くを教えられました。 時には息子のためを思ってアドバイスしたくなるのですが、「お母さん、僕はただ話を聞いてほしいんだよ」と言われて、「ごめんなさい!」と謝ったことも(笑)。話を聞く側に思い込みがあると、相手の成長を妨げてしまう可能性があります。 また、私たちと同じように、罪を犯した人たちも時とともに変わっていきます。映画に登場した元受刑者のうち2人とはいまもよくやり取りしますが、刑務所内で映画を撮影しているときと出所後の現在では、考えが大きく変わっていることを実感します。ですから、話を聞くたびに「いまはそう思っているんだ」「昔はこう言っていたよね」と確認していく作業を大事にしています。 ――いまは少年院でのラップのワークショップを撮影し、やがては映画として発表することをめざしているそうですね。 【坂上】『プリズン・サークル』を公開したあと、「刑務所について無知だった」「もっと関わりたい」という反応をいただき、背中を押されました。そして、当事者が社会と繋がることが社会を変えるきっかけになると思って始めたのが、ラップを用いた少年院でのワークショップです。子どもたちがつくったラップに対して、外の大人に応答してもらうのです。 ラップを受け取る大人たちは、最初は子どもたちが吐露する悪事にショックを受けますが、必死に受け止めようと歌を返します。すると、次第に大人たちが自分の弱さや失敗を吐き出し始める。それを受け取った子どもたちは「大人たちも自分たちと変わらないんだ」と驚き、社会への認識を変えていきました。 ワークショップは5カ月間でしたが、その短期間で子どもたちのみならず、参加した大人も大きく変わりました。 現実問題として、出所してまた罪を犯す元受刑者も存在します。それでも私が思うのは、一度罪を犯したとしても、人は何かのきっかけで変われるということ。ただし、変わるペースはひとそれぞれ。そうであるならば、どう罰するかだけではなく、社会として彼ら彼女らの現実とどう向き合うかを考えるべきではないでしょうか。 私だって無力さを感じて、落ち込んでばかり。それでも、すぐに起き上がります。人は立ち直れるということを、刑務所の更生プログラムなどで目の当たりにして、多くを学ばせてもらってきたからです。 彼ら彼女らの傷を消すことはでき得なくとも、その経験を何かに活かすことはできるかもしれない。そのためには、自分が傷ついた経験、そして人を傷つけた経験をしっかりふり返り、変わる場が必要不可欠です。いま社会に欠けているのはその機会であり、刑務所とは本来、そういう場でもあるべきなのではないでしょうか。
坂上香(ドキュメンタリー映画監督)