病院の「ランキング本」はなんのためにある? 現役医師が明かす「失敗しない病院選び」の“本質”
手術はやればいいというものではない
手術件数が多いことがいい病院の条件と書いてきましたが、話を一歩進めると、いい外科医とは手術をしないという判断をできる医者のことでもあります。 あえて古い例を出しますが、アナウンサーの逸見政孝さんがスキルス胃がんの再発に侵されたとき、東京女子医科大学病院で名医として名高い外科教授が手術を行ないました。転移していた内臓を全部摘出してしまう大手術です。 世間の人たちは逸見さんの復帰を信じたと思いますが、私たちは仲間内で、「逸見さんは退院すらできないだろう」と囁きあっていました。そして実際その通りになりました。手術による体への負担があまりにも大きかったからです。 なぜ手術に突き進んでしまったのでしょうか。執刀した教授にストップをかける部下はいなかったのでしょうか。 こういうことを含めて、いい病院の真のランキングは決まるのだと思います。手術はやらないことも大事な判断であり、選択肢の一つなのです。 私自身も最近、ある知人女性が胃がんになり、転移があるのに近所の民間病院で胃の摘出手術を受けると聞き、慌てて転院を勧めたことがあります。その女性は転院先の公立病院で抗がん剤治療を受け、一時的に退院して、食事も自由に取れて家族と楽しい時間を過ごすことができました。手術はやればいいというものではありません。
誤解しがちな紹介状の真実
最後に、病院への紹介状に関して、みなさんの誤解を一つ解いておきます。紹介状の宛先が、A病院のX先生になっているとします。あなたがA病院へ行くと、X先生の外来を受診することになるでしょう。X先生は腕もよく人格者だという評判を聞くと、あなたは治療にとても期待を持つでしょう。 でも、手術をX先生が行なうかはまったく別です。大学病院などの大病院には何人もの外科医がいて、誰がどの手術を執刀するかは医師たちが話し合って決めます。または、トップの外科医の一存で割り振られたりします。少なくとも、紹介状に書いている名前の医師が、そのまま手術も担当することは通常ありません。 つまり、腕のいい外科医との人脈を持っている開業医こそがいいかかりつけ医だという医療評論家もいますが、そういう事実はありません。そこは誤解しないでください。 ・「いい病院」の条件とは、“するべき”手術件数の多さと、アクセスのよさ ・ムック本のランキングは、セカンドオピニオンの参考書として利用しよう ・紹介状に宛名が書いてあっても、必ずその医者が執刀するとは限らない
弁護士JP編集部