病院の「ランキング本」はなんのためにある? 現役医師が明かす「失敗しない病院選び」の“本質”
「いい病院」は経験が豊富!?
この問いに答えを出すのは非常に難しいのですが、その一つは経験でしょう。もっと具体的に言えば、処置の数や手術の数です。がんの治療でも心臓のカテーテル治療でも、脳血管疾患の治療でも、その数の多さはいい病院の指標にはなるでしょう。 毎年、朝日新聞出版や読売新聞社が、『いい病院』『病院の実力』というムックを発刊していますが、その基準は手術件数です。確かに、胃がんの手術を月に1回くらいしかやらない病院で、自分の胃の手術をしてもらおうとは思わないでしょう。 しかしあえて言うと、数ある病院の中から最善の病院(手術数の多い病院)を選んで、そこへ紹介状を書いてもらえるというのは、大都会に住んでいる患者さんだけではないでしょうか。地方であれば、当然選択肢は少なくなります。
遠くの〝名医〟より近くの〝並医〟
それに、開業医と同じように、いい病院だからといって、遠くまで行きたいと思うでしょうか。私は千葉県千葉市に住んでいます。たとえば私が胃がんになったとしましょう。手術件数のランキングをチェックすると、千葉県でナンバーワンは、国立がん研究センター東病院です。しかしこの病院は柏市というところにあり、自宅から車で1時間半くらいかかります。 もしこの病院に入院したら、家族や友人が面会に来るのも大変だし、ちょっと足りない下着を家人に取ってきてもらうにも一苦労だし、それに手術後の外来フォローなどとても通いきれるものではありません。 私の自宅から車で20分のところに千葉大病院があります。同病院のランキングは圏外ですが、私なら迷わず千葉大病院へ紹介状を書いてもらいます。アクセスのよさは、それだけでいい病院の条件の一つです。
ランキング本は何のために?
手術のうまさとは、確かに経験なのですが、経験が豊富な病院というのは医師の数も多く、一人の医師が行なう手術の数は、実はそれほど多いわけではない可能性もあります。そしてはっきり言って、胃がんの手術など、ある一定レベル以上の経験を積んだ外科医であれば、誰でもできます。 では、こうしたランキングのムックは何のためにあるのでしょうか?それはセカンドオピニオンを受けるときの参考でしょう。胃がんの手術は難しくないと言いましたが、肝臓がんや膵臓がんなどの一部疾患は、手術を含めたトータルの治療が現在でも大変難しいと言えます。 あなたが紹介された病院で、担当医が治療に関して迷いを見せたときは、こうしたランキング本を利用して、セカンドオピニオンを受けるのは「あり」だと思います。