「甲子園があろうがなかろうが野球が好き」という気持ちを絶対に奪ってはいけない 作家・早見和真が問い続けたあの夏
新型コロナウイルスの影響で去年の甲子園大会は中止となった。作家の早見和真さんは去年、甲子園という目標を失った高校球児たちに3カ月の密着取材を行い“甲子園のない夏”の意味を問い続け、一冊の本にした。一転して今年の甲子園大会は開催されたが、かつての高校球児でもあった早見さんはそれをどう感じたのか、話を聞いた。(Yahoo!ニュース Voice)
――去年は甲子園中止、今年は強行。甲子園大会に何を感じたか。 僕が2020年の高校3年生だったら、今年できるなら去年できたじゃん、という気持ちがまず働いただろうなと感じます。しかし2021年、今年の高校3年生の身になって考えたら、一斉に甲子園を奪われた去年の方がまだフェアだったなって思うんです。 今年は開催が強行され、ある学校はコロナが出てしまったから辞退する、ある学校は救済される、そこでテレビをつけてみたら大人たちはオリンピックをやっている。アンフェアさが今年の方が強かったのではないかと思っています。 今年の3年生たちに対しての方がかける言葉が見つからないというか、共通してかけられる言葉がない。去年の3年生の方が共通した思いがあっただろうな、というのが僕の今年の見え方でした。
――執筆のテーマとして高校球児を取材したきっかけは何か。 前提として僕は高校時代に野球をやっていまして、もし僕が現役の高校3年生で、今年の夏の甲子園が中止になると決まった時に、何を感じ取るかが全く想像できなかったんですよね。 もう一方で、僕自身が2020年に、このまま同じように小説というものを書き続けていいのだろうかとちょうど迷っていた時期だったんです。 そこで、去年の高校3年生が人生をかけてきたものを今にも失おうとしているその瞬間に立ち会わせてもらいたい、彼らが何を感じ取ってどういう風に向き合っていくのかを知りたいと思いました。 去年の5月20日に甲子園は中止決定しているんですけど、その日から夏が終わる3カ月間を二つの高校、名門高校野球部にずっとくっついて拝見させてもらい、それを文章にしたというのが一連の流れです。