「知らない」では済まされない士業がやっている地道な準備 (横須賀輝尚 経営コンサルタント)
■今持てるすべての力でサービスをすることが重要
結論からいえば、私自身の経験や他の方の意見を概括すると、2、3年も取り組めば実務知識としての土台は身につきます。前述のとおり、そもそも完璧な業務知識というのはないのですから、士業としてのバックボーンが身についた後は、独立するかどうかのタイミングは自分で判断するしかありません。 重要なのは、そうした実務家としての準備ができたあとは、「一士業として目の前のお客様からいただいた仕事を自分の責任でできるか」という覚悟ができるかどうかです。もし、この覚悟ができなければ、まだ開業には早いといえます。 私自身は、まったく実務の土台がないところから始めました。ですから、この点に関しては長い間コンプレックスがあり、早い段階で「専門家」として胸を張って行動したいと考えていました。しかしながら、生活のために営業をしながら実務の知識を深く学ぶということは、1日の時間がいくらあっても足りず、結果として中途半端になってしまう恐れがあります。そこで、私は次のような方法を採りました。
■ある程度の調査能力、応用力が付けば後は自分のタイミング
私が取った実務家としてのスタンスは、(1)広く浅く知識を身につける、(2)いつでも調べられる状態にしてわからないことは持ち帰る、という二点です。 どの士業であれ、まったく知らない分野があるというのは、お客様にとってやはり不安の要素になってしまいます。特に行政書士のような業務が多岐にわたる資格では、広範囲の知識を深く覚えることは大変なのですが、それでも「それは知りません」ではお客様の信頼を得ることはできません。ですから、最初は広く浅く知識を身につけ、そして徐々に知識を深めていくことが一流の実務家になるための最短距離だといえます。 具体的には、いわゆる実務書といわれるようなハードカバーで1冊3,000円も4,000円もするような書籍での勉強は最初の段階で行わず、もう少しライトな感じのビジネス書で勉強するのがよいでしょう。実務書は文章も難しく、決して読みやすいとはいえません。ですから、実務書のような「専門家が専門家のために書いた本」ではなく、「素人でも理解できるように書いた本」であるビジネス書の手続きや法律の本から始めるのがもっとも導入としては簡単です。 こうしてまずは浅めの知識を身につけます。そうすると、「まったく何もわからない」という状態から脱却できるようになりますので、ここまで来たら第二段階に移行します。 第二段階では、いつでも「調べられる状況」をつくり出します。情報が掲載されているウェブサイトへのブックマーク、関係役所の連絡先をあらかじめ用意し、お客様に「もっと詳しいことを知りたいのですが」といわれた際に、すぐに調べられるようにしておくことが重要です。 特に近年はスマホやタブレットの普及によって、いつでもどこでもネット検索ができるようになっています。もちろん記憶することも重要ですが、「いつでもすぐに答えを調べられる」状態をつくっておくことがポイントです。 ただし、気をつけたい点としては、ネット検索には依存しすぎないことです。ネット上の情報は都道府県や市区町村が提供している情報を除けばその真偽をたしかめることが容易ではありません。そのため、手軽に検索できる一方で誤った情報を本物と勘違いしてしまうこともあります。 そこで、アナログな手法ですが、役所の担当者に直接電話して、確認を取る、という方法をとってください。こうすることによって、いち早く情報を押さえられますし、この情報は役所のお墨付きになります。加えてポイントをいえば、担当者の名前も押さえておき、「言った、言わない」の水掛け論にならないように準備しておくことです。 結局は、こういった日々の調査の中で実務レベルは磨かれていきます。「完璧な状態」というのはいつまでもやってこないものと考えれば、このような準備をして後はあなたが決意するだけです。そのタイミングに正解も不正解もありません。後はあなたの決断によって決まるのです。 横須賀輝尚 パワーコンテンツジャパン株式会社 代表取締役/特定行政書士
【プロフィール】
1979年、埼玉県行田市生まれ。専修大学法学部在学中に行政書士資格に合格。2003年、23歳で行政書士事務所を開設・独立。2007年、士業向けの経営スクール『経営天才塾』(現:LEGAL BACKS)をスタートさせ創設以来全国のべ2,000人以上が参加。著書に『プロが教える潰れる会社のシグナル』(さくら舎)、『会社を救うプロ士業 会社を潰すダメ士業』(さくら舎)、『資格起業家になる! 成功する「超高収益ビジネスモデル」のつくり方』(日本実業出版社)、『お母さん、明日からぼくの会社はなくなります』(角川フォレスタ)、他多数。