アメリカの地図

　【ワシントン古川幸太郎】11月の米大統領選に向けた初の直接対決で、民主党候補ハリス副大統領（59）は、共和党候補トランプ前大統領（78）を相手に、討論をリードして見せた。入念な準備が奏功したハリス氏に対し、即興のトランプ氏は守勢に回った。ただ態度を決めていない有権者に、どの程度響いたのか－。接戦の行方は見通せない。 【写真】討論会の冒頭、握手するトランプ氏とハリス氏 　終始、仕掛けていたのはハリス氏だった。 　移民問題がテーマの時に「トランプ氏の集会は退屈なので人々は途中で帰っている」と挑発。トランプ氏は「反論させてほしい」と割って入ったものの、突如、「不法移民は犬や猫など住民のペットを食べている」と主張。司会者はすぐに事実ではないと指摘し、ハリス氏もあきれた様子で「極端な話だ」と返した。 　その後も、検事出身のハリス氏が舌鋒（ぜっぽう）鋭く、たたみかけた。 　2020年大統領選での敗北に疑問を呈したトランプ氏に対し、ハリス氏は「（バイデン大統領に投票した）8100万人の国民に解雇された」と強調。「世界のリーダーたちはトランプ氏のことを笑っている」と批判すると、トランプ氏は怒りをあらわにした。 　米ジョージ・ワシントン大のトッド・ベルト教授は「ハリス氏は台本がない中でも自信に満ちており、トランプ氏の弱点を浮き彫りにした」と評価した。 　　　■　　　　■　 　対するトランプ氏はハリス氏への個人攻撃を控え、バイデン政権ナンバー2である責任を追及する戦略で臨んだが、たびたび脱線した。 　「みんな彼女がマルクス主義者だと知っている。父親はマルクス主義の教授だった」。序盤から討論のテーマと直接関係のない話題が散見された。 　中絶の権利を巡っても、トランプ氏は、民主党副大統領候補のウォルズ・ミネソタ州知事（60）が出生後の子どもの殺害を容認しているなどと虚偽の主張を繰り返した。 　CNNによると、トランプ氏の虚偽主張は30回超。米政治メディア、ポリティコは「周囲の助言に反してトランプ氏はハリス氏のわなにかかった」と報じた。 　終了後、トランプ氏は記者団に「最高の討論会だった。ハリス氏は惨敗した」と豪語したが、守勢を強いられたことへの焦りをのぞかせた。 　　　■　　　　■　 　最終盤に向け大一番を乗り切ったハリス氏だが、大統領としての「力量」を示せたかは不透明だ。 　ニューヨーク・タイムズ紙の最新世論調査によると、有権者の3割が「ハリス氏をもっと知る必要がある」と回答。この日も、シェールガスの開発手法フラッキング（水圧破砕法）を巡る主張の変遷や、経済政策の財源などに正面から答えることを避けた。 　政治サイト、リアル・クリア・ポリティクスが集計した10日時点の各種世論調査の平均支持率はハリス氏が48・4％、トランプ氏が47・3％。激戦7州に限ると、ハリス氏のリードはわずか0・2ポイントに過ぎない。 　16年大統領選では民主党候補のクリントン元国務長官が計3回の討論会を優位に進めながら、本選で敗れた。両候補の発言、聞く姿勢、表情が、有権者にどう受け止められたのかも、鍵を握る。 　今月から郵便投票や期日前投票が順次始まる。支持拡大に向け、両陣営に残された時間は長くない。