まるで船の舳先! この家の中はいったいどうなっているのか? 理想の建築を目指した建築家の素敵な自邸をのぞいてみた!
思わず中を見たくなる不思議な三日月ハウス、全部見せます!
雑誌『エンジン』の大人気連載企画「マイカー&マイハウス クルマと暮らす理想の住まいを求めて」。今回は、埼玉県の住宅街に建つ、大きくカーブした三日月形の一軒家。外観は白いが、中はカラフルな唯一無二のデザインに、建築家・熊木英雄さんのこだわりが明確に表れていた。ご存知、デザインプロデューサーのジョースズキ氏がリポートする。 【写真21枚】思わず中を見たくなる不思議なカタチの三日月ハウスの、中も外も全部見せます! 詳細画像はコチラから ◆優雅な客船を思わせる外観 東京に近い埼玉県の住宅街に建つ、建築家・熊木英雄さん(53歳)の自邸。優雅な客船を思わせる、曲線が美しい白い家だ。ここで暮らすのは、熊木さん夫妻に二人の子供(長男14歳・長女11歳)。長子を授かってから設計に着手した家で、今年で築13年になる。建物は上から見ると、三日月のように大きくカーブした形。地面と接する部分も曲線で、未来の乗り物を連想させる独特の意匠だ。 この個性的な姿ゆえ、建築に全く興味の無さそうな宅配便の配達員からも、船で言う舳先(へさき)の「裏側はどのようになっているのか」と質問されたことがあったほど。このように人の関心をひきつける外観の熊木邸だが、内部空間も負けずに個性的。曲線で構成され、明るい色が溢れている。 現代の日本の住宅は、直線で構成されたものが少なくない。ところが海外ではその反対の、曲線を中心としたスタイルの家を随分と目にする。英語でオーガニックデザインと呼ばれるものだ。さらに曲線を利用した建築の中には、形や向き、窓の位置などを工夫することで、太陽の光や風をコントロールするエコな手法もあり、ひとつの考え方となっている。熊木さんが目指しているのは、そうした建築に、楽しい色を加えた世界である。熊木邸は、建築家の自邸ならではの、主義主張が明確に表れた家だ。 ◆新しい切り口を求めて渡英 若い頃の熊木さんには、自分の建築を見つめ直すとともに新しい切り口を求めて渡英した経験がある。そこで出会い惹かれたのが、曲線と色彩を用いた建築だった。熊木さんは、このスタイルで世界的に知られる建築事務所に4年半ほど勤務。帰国後立ち上げた自身の建築事務所名は、目指すスタイルを謳った「(株)オーガニックデザイン」である。 子供が生まれるまでは、マンション住まいだった熊木さん夫妻。自宅を建てたのは、熊木さんの母親が菜園として使っていた土地だ。今でも道路に沿って植えられたバラが、季節になると道行く人の目を楽しませている。そのような歴史から、熊木邸の形は、どの部屋からも母親が丹精した庭を眺められるような三日月形となった。もっとも曲線で構成された建物は、通常よりも建築費がかさむ。建物のサイズは予算の関係で自然に決まったと熊木さんは話す。 間取りは、「基本、大きな1LDK」でスタートした。三日月に四角い玄関部分が付いた構成で、三日月の片側には大きなリビング・ダイニング・キッチンが配され、その端の船の舳先の内側部分は勉強スペースになっている。そして建物の反対側は主寝室と子供のスペース。2人目の子供が生まれたことで、7年後、ガレージを二人の子供部屋に改装し、玄関脇から子供部屋に通じる廊下を追加した。この増築で追い出されたクルマは、新たに設けたカーポートの下に停められている。 ◆明るい色の効果 そんな熊木邸に足を踏み入れてまず感じるのは、空間が洒落ていること。魅力的なファブリックを纏った、熊木さんがデザインした家具も素敵だし、棚に並ぶ調度品のセンスも良い。だがそれ以上に、室内の要所要所がカーブになった空間や、壁の一部に張られたカラフルなタイルが生み出す、独特の雰囲気に惹かれる。まぎれもなく、建築の力だ。 そのうえこの空間に身を置いていると、なんとも楽しく幸せな気持ちになるのも良い。これが、熊木さんが目指した建築だろう。三日月形をした家の内部や建物両端の斜めの壁も、違和感を覚えないどころか極めて自然に感じられた。 さらに印象的だったのが、広々として明るいこと。床も天井も白く室内に光がまわるうえ、天井高は2.7mもある。庭に面した窓も大きく、その向こうに見える、日よけとして植えられたゴーヤの蔦が緑のカーテンになっており、目に心地よいのだ。取材にお邪魔したのは、夏の盛り。強い日差しは遮られるが屋内は暗くなること無く十分な光が差し込み、近隣マンションからの視線の目隠しにもなっていた。 自邸のインテリア同様、熊木さん一家のクルマは内装にもこだわっている。熊木さんが普段の足に使っているのはフィアット500Cツイン・エア(2013年製)。並行輸入の左ハンドルMTモデルで、ダッシュボードをカスタマイズして革を張っている。一方、奥様が子供の送迎などに使っているのがシトロエンDS7クロスバック・グランシック(2020年製)。走りが良くて選んだというが、内装に定評のあるモデルである。実は奥様は、結婚する前の会社員時代、都内の通勤用にもかかわらず、デザインに惹かれてわざわざMTのフィアット・パンダを選んだほどのクルマ好き。クルマのことをよく分かっている奥様のお陰で、カーライフも充実しているそうだ。 そんな奥様が家作りの際に希望したのはアイランド・キッチンくらい。後は理想の建築を目指す建築家である夫に全てを委ねた。そんな家族の応援もあって完成した、建築家の理想を具現化した熊木邸。この家の唯一無二の個性は、築13年の時の流れなど全く気にならないほど魅力的に思えた。 文=ジョー スズキ(デザイン・プロデューサー) 写真=田村浩章 ■建築家:熊木英雄、1971年埼玉県生まれ。大学で社会心理学を学ぶが、建築家を志し工学院大学で建築を専攻。渡英して、曲線を基調とする色彩が豊かなデザインに出会い、英国の建築事務所フォスター&パートナーズや、フューチャー・システムズで大型物件を手掛ける。帰国後は、自身の事務所を設立。写真の「まちのくぼみ」は、オーガニックな外観とカラフルな室内の、熊木さんらしい個性の集合住宅。母校の工学院で教鞭もとる。 ■ジョースズキさんのYouTubeチャンネル、最高にお洒落なルームツアー「東京上手」! 雑誌『エンジン』の大人気企画「マイカー&マイハウス」の取材・コーディネートを担当しているデザイン・プロデューサーのジョースズキさんのYouTubeチャンネル「東京上手」。建築、インテリア、アートをはじめ、地方の工房や名跡、刺激的な新しい施設や展覧会など、ライフスタイルを豊にする新感覚の映像リポート。素敵な音楽と美しい映像で見るちょっとプレミアムなルームツアーは必見の価値あり。ぜひチャンネル登録を! ◆「マイカー&マイハウス クルマと暮らす理想の住まいを求めて」の連載はENGINEWEBでご覧いただけます! (ENGINE2024年11月号)
ENGINE編集部
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