森保 一(サッカー男子日本代表監督)×中川絵美里「『俺が王様』という選手ばかり。そんな彼らをリスペクトしている」
中川 長期政権の場合ですと、だんだんと監督が独善的なやり方に偏ってしまうというリスクもはらんでいます。 その点、森保ジャパンは少数精鋭ではなく、コーチ陣はもちろん、U-23代表の大岩剛(ごう)監督やU-18代表の船越優蔵監督、スペインのセビージャで2度、UEFAヨーロッパリーグ優勝に貢献した分析官(アナリスト)の若林大智さんらとも幅広く連携を取られて、うまく分業制を敷いているようにお見受けします。 森保 働き方改革じゃないですけどね(笑)。少数精鋭主義も良いのですが、今のわれわれの目標というのはあくまでW杯優勝なので、それを実現させるためにはものすごい労力が必要なわけです。 W杯というとてつもなく重圧のかかる舞台、しかも、映像でたとえるならば1.5倍速のスピード、2倍の強度をピッチ上で体現していかねば勝てない。 W杯北中米大会は、参加国が過去最多の48、決勝トーナメントには32ヵ国が進むことになるので、予選から決勝まで戦うとなれば今までの最大7試合からひとつ増えて8試合になります。うまく決勝戦までたどり着いたとして、それで満足するのではなく、100パーセントのエネルギーで戦い切って優勝できるような体制とはなんぞや、と考えたとき、とても少人数では回し切れない。 それに情報戦というのも、現代サッカーにおいては非常に重要なポイントです。情報を収集分析して、戦術を作り、選手たちに伝えていくとなったら、やはり人数はそろっていたほうがいい。 中川 まさにチーム一丸といった感じですね。 森保 ええ。これはチームマネジメントという観点で、サッカーにとどまらず会社組織にも当てはまると思うんです。少数精鋭のほうがベクトルが合わせやすく、多人数のほうが一丸となりにくいという考え方もあるでしょうが、みんなが同じ夢、同じ目標を持っていれば、人数は多いほうが当然強いだろうと。日本人はそれができるし、それだけの団結力があります。 中川 確かに、昨年6月に大岩監督を取材した際、各年代の監督同士でコミュニケーションを密に取っているとおっしゃっていました。組織力に秀でている日本人の性質が、日本代表全体に一体感をつくり出しているということですね。 森保 ええ。大岩監督は就任前からA代表の国内キャンプにも参加してくれて、選手招集においてもかなり密にやりとりをしました。22年のE-1サッカー選手権は、U-21代表の羽田(憲司)コーチが一緒に活動してくれて。 さらに、A代表の親善試合カナダ戦(23年10月13日)と、チュニジア戦(10月17日)では船越監督が来てくれて、活動内容を共有しました。日本の勝利のため、お互いに尊重し合って前に進んでいくというのは、やっぱり日本人のDNA、魂というところで心身共に結びついているからこそできることだと思います。