森保 一(サッカー男子日本代表監督)×中川絵美里「『俺が王様』という選手ばかり。そんな彼らをリスペクトしている」
中川 監督は決断の連続で、非常に孤独だと、大岩監督もおっしゃっていましたが、森保監督は本当に迷った場合、どうされていますか? 森保 私の場合、ひとりで抱え込まないんですよ(笑)。コーチ陣にも意見を求めて、一緒に考えます。もちろん、最終的には私が決断を下しますが。コーチ陣からはそれぞれいろいろな意見が出ますので、採用、不採用というのがどうしても生じます。 心の中では「ごめん、採用できなくて」と思うこともままあります。でも、原理原則というのはあくまで日本の勝利と日本サッカーの未来のため。そして先ほど申し上げた日本の価値を高める。これに尽きます。 中川 あらゆるジャッジの根幹には必ず「日本のため」という信念があるんですね。とはいえ、森保監督はドライというわけではなく、選手からはコミュニケーション力に長(た)けた指揮官だと声が上がっています。 昨年のカナダ戦でも、久保(建英)選手と談笑しているシーンが中継で抜かれて、話題になっていました。 森保 そうだったみたいですね(笑)。私自身、監督を務めてチームを見させていただくにあたり、大切にしている要素のひとつにコミュニケーションがあります。もちろん勝利は大事ですけど、その前にまずは人としてどう向き合うのか。そこは常に忘れないようにしています。 中川 選手とコミュニケーションを図る中で、これまでいろいろな発見があったと思うのですが、いかがですか? 森保 とにかく、みんな気が強いですね(笑)。 中川 自己主張が激しいわけですか。 森保 私はそれを自己表現能力として解釈していますが。皆が皆、「俺が一番。俺が王様」という選手ばかりです。「なんで、俺は使われないんですか!?」って直訴してくる選手も多々います。 でも、そんな貪欲さが素晴らしいなと。もっとうまくなりたい、強くなりたい、成功したいって、突き抜けた向上心の持ち主なんですよ、みんな。私の息子ぐらいの年齢なのに、すごいなって、心からリスペクトしています。 中川 監督にそれだけの思いがあるのなら、よけいに選考はつらくなりますね。 森保 いいときばかりじゃない、壁にぶち当たって、もがき苦しむ選手たちの姿を間近で見て楽しいとは思えず、切ない気分になることもあります。でも、前を向いて這い上がろうとする彼らは魅力的です。 中川 かつて監督は選手時代、1993年に受けた取材でこう答えています。「指導者に言われるままではダメ、サッカーに研究熱心であれ」と。選手の自主性を尊重するというのが、監督の根幹にある信条なのでしょうか?