認知症予防に骨の健康を維持する酒向メソッドが必要なのはなぜか【正解のリハビリ、最善の介護】
【正解のリハビリ、最善の介護】#56 「最近、体が硬くなって、動きにくいの。背中が曲がってて、背が縮んじゃったの」 姿勢が“くの字”の「腰曲がり」は治せる、予防できる 年をとっても遅くはない 「腰を圧迫骨折した母が寝たきりになって、認知症になってしまって……。どうしたらいいでしょうか」 「母が膝と股関節が痛いと言って、ほとんど歩かなくなったと思ったら、トイレを失敗するようになってしまいました」 患者さんやご家族からよく寄せられる相談です。 こうしたケースでは、もちろん攻めのリハビリ治療を行って状態を改善し、運動機能と脳機能を可能な範囲で回復させます。そのために大切なポイントとして、今回は「骨」の自然経過と、その問題について考えてみましょう。骨の健康と認知症は深く関係しているのです。 50歳以上では、10歳ごとに筋肉や脳神経だけでなく、骨の状態も徐々に低下していきます。以前お話ししたように、骨量が低下する一方で異常な骨が形成され、脊椎や大きな関節が変形し始めます。さらに、軟骨も減少して疼痛が生じます。その結果、孤立が生じると、認知機能が急速に低下します。 これを予防するには、骨にしっかりと体重や重力をかけて荷重を与え続けることが重要です。50歳以降は、異常な骨形成を防ぐために関節可動域を保つストレッチ運動を正常時から継続する「酒向メソッド」が必要になります。 加齢性の骨変化で代表的なものは、①骨粗しょう症、②変形性関節症、③変形性脊椎症による脊柱管狭窄症です。まず①骨粗しょう症は、閉経、病気、内服薬、家族歴、生活環境なども関わってきますが、加齢で増悪するのは言うまでもありません。なぜでしょうか。 われわれは50歳くらいから徐々に骨密度が低下し、骨のコラーゲンの構造が変化して骨の強度が低下します。特に女性は閉経とともに女性ホルモンであるエストロゲンの分泌が減少すると、骨吸収のスピードが骨形成を上回ってしまい骨密度が低下します。このため骨がもろくなり、脊椎の圧迫骨折や大腿骨近位部骨折、前腕遠位端骨折が起こりやすくなるのです。 骨粗しょう症の発症には骨代謝が深く関係しています。骨では、破骨細胞が古くなった骨を壊し(骨吸収)、骨芽細胞が新しく骨を作って(骨形成)います。この両者のバランスが崩れ、骨吸収が骨形成を上回ってしまうと、骨密度が低下して骨粗しょう症になるのです。 ■運動習慣は骨粗しょう症を防ぐ このため、骨粗しょう症の治療は薬剤療法が有効です。ただ、骨を丈夫にするためには、運動、食事、日光浴、禁煙、節酒が必要です。とりわけ、骨にしっかりと荷重をかけた運動習慣は骨を丈夫にして、筋力や体力、バランス、関節可動域を向上させます。ですから、自分の骨機能の低下がわからない50歳以降は、インストラクターやセラピストがトレーニングプランを計画して助けてくれるパーソナルトレーニングが最適です。 ただし、週1回で月3万円以上の費用がかかるようなトレーニングでは、95歳まで継続するのは難しいでしょう。最近は週1回で月1万2000円くらいまでの社会貢献事業としてのパーソナルジムができています。そうした長期間継続できるジムをお住まいの地域で探されることをおすすめします。 食生活では、骨の健康のために、カルシウム、ビタミンD(1日30~60分の日光浴でも可)、タンパク質などをバランスよく摂取しましょう。1日3食、主食(ごはん、パン、麺類など)、主菜(肉、魚、卵などのおかず)、副菜(野菜、きのこ、海藻など野菜中心のおかず)の3要素を揃えることも大切です。 一方、すでに肥満の方は1日2食のケトジェニックダイエット(毎日12時間以上は糖分をとらない時間を保つ)を行うと内臓脂肪の減量に効果的です。 (酒向正春/ねりま健育会病院院長)