物流コストの抑制に向けた「全体最適」と「経営力」の重要性…物流2024年問題
イメージ
物流コストの突出した上昇 円安やエネルギー価格の上昇は、実に様々な商品・サービスのコストアップを生んでいる。物流はその代表的な存在といってよいだろう。バブル経済の崩壊以降、トラックの運賃は長らく微落傾向にあったが、2014年頃から上昇に転じ、現在ではバブル期よりも15%ほど高い水準にある。海運や航空輸送に至っては30%以上も高い。企業向けのサービス全体では、バブル期とさほど変わらない水準にあることを考えると、その上昇率は突出している。物流コストの高騰を理由とした値上げが多いのも当然といえよう。 残念ながら、この状況はさらなる悪化が予想される。「2024年問題」があるからだ。2024年4月以降、今まで猶予されていた時間外労働の上限規制がトラックドライバーにも適用されるようになる。結果として輸送能力は低下し、単に運賃が上がるだけではなく、今まで運べていたモノが運べなくなる可能性もある。物流クライシスは過去のものではなく、これから本格化するのである。 物流コストは「濡れたハンカチ」? 物流コストを支払う側の荷主企業は、この問題にメスを入れられているのだろうか。結論からいうと、現場レベルでの努力はさておき、大胆な改革を実行できている企業は少ない。企業からすれば、物流コストの上昇は認識しつつも、全社コストに占める割合が相対的に小さいからである。 例えば、メーカーの場合、原材料や部品などの調達費が全社コストの50-60%を占めることが多い。次いで大きい費目は、工場で働く従業員の労務費、委託先の企業に支払う外注費、管理部門や営業部門の人件費で、それぞれ10-15%を占める。これらについては、その割合が高いことからコスト構造改革のターゲットになりやすい。特に調達費は不正の温床になることも多く、調達先や価格の妥当性が厳しくチェックされる。 他方、物流費はというと、全社コストに占める割合は5%程度である。しかも、納品のときのみならず、原材料や部品の調達、工場間での製品の輸送でも発生するため、一元管理できていない企業も珍しくない。まして、つい数年前までは微減傾向にあったのだ。誤解を恐れずにいえば、大方の企業では物流管理がおざなりになっていたのである。 筆者は、今までに数多くのコスト構造改革を支援してきたが、調達費を10%以上削減できたことはあまりない。過去に何度も調達改革を実行した企業となると、1%削減できれば御の字だ。対して、物流費はというと、赤字が常態化し、人員整理まで行った企業であるにもかかわらず、20%以上削減できたこともある。全社コストの50%を占める調達費を1%削減するのと、5%の物流費を20%削減するのと、どちらのコスト削減効果が大きいだろうか。掛け算をしてみればわかるが、後者の方が2倍大きいのである。平たくいえば、「分厚くても乾いたぞうきん」より、「濡れたハンカチ」を絞った方が効果的ということだ。 物流部門以外の協力を得ることの重要性 この話を経営者にすると、「今から物流担当に発破をかけます」「物流コストを精査し直します」などと言われることがある。至極真っ当な反応だが、それで物流コストが20%下がるかというと、そんなことはない。 第一に、程度の差はあれ、現場レベルでは、在庫の配置を換えたり、入出荷の手順を見直したり、配送ルートを組み替えたりといった改善策が実行されているからだ。中には、「昔から同じ運送会社を使っている」「協力会社に丸投げで効率性に問題があるのかどうかもわからない」などという企業もあるが、委託先や業務内容を全面的に見直したところで、物流コストを10%以上削減できることは少ない。 では、どうすれば物流コストを20%も削減できるのか。その秘訣は、「物流部門以外の協力を得ること」にある。 工場との連携による物流コストの削減 筆者がコスト構造改革を支援した機械メーカーのA社は、X工場で部品を加工し、Y工場で組み立てた上で、納品先に出荷していた。このX工場からY工場へのトラック輸送を1日3回行っていた。輸送の頻度が高ければ、その分だけ工場内にある在庫を減らせるからである。トヨタ式の「ジャスト・イン・タイム」を徹底した結果といえよう。
本文:3,069文字
購入後に全文お読みいただけます。
すでに購入済みの方はログインしてください。
レスポンス 小野塚 征志