批判逆手に取った「バイデノミクス」中間層重視の新スローガンは有権者に響くか? シカゴで見た熱狂と貧困【2023アメリカは今】
シカゴ市内のナイトクラブに足を延ばすと、弟や兄と遊びに来ていた男性(62)に話しかけられた。「バイデノミクスはどうか」と問うと、「期待できない」とばっさり。エリート臭が強いとやゆされる現政権への距離感は拭えず「正直、トランプ前大統領のほうが言っていることが分かりやすくて支持しやすかった」と肩をすくめた。 ▽こぼれ落ちる人々 米国での所得や富の格差は長期間にわたって広がっている。世界不平等データベースによると、米国の税引き前所得について上位1%の超富裕層が占める割合は、1971年に11・1%であったのが、2021年には19%に増加した。対して所得下位50%の層は20・4%(1971年)が13・8%(2021年)と減少し、状況は50年で「X」字を描く形で逆転した。 経済のIT化で巨大企業や一部の経営層に富が集まりやすくなった反面、新型コロナウイルス禍での支援策打ち切りや家賃高騰により、大都市部では路上で暮らす人の姿が如実に増えている。
シカゴでも傾向は顕著だ。6月28日の演説会でバイデン氏を包んだ熱狂の輪のわずか数十メートル先の歩道では、車いすに座るリービス・ハーヴェスさん(33)が、友人のベロニカ・ファガーソンさん(29)と赤い傘をひっくり返し、施しを求めていた。ハーヴェスさんは家族の生計を支えた父を10代で亡くし、自身も感染症による骨髄炎で体調が悪化。働ける状況ではなくなった。両手は腫れ上がり、手足を動かすのが不自由だという。握手に差し出した右手の皮膚ははがれ、白くなっていた。「骨や神経が損傷して、手足が機能しなくなるんだ」。肺炎にもかかったといい、日常生活では常に落命の危険と隣り合わせだと言う。 「父が亡くなってからずっと路上で暮らしている。兄弟も最近死んでしまった。肺炎は病院で抗生物質を投与してもらって、どうにか生き延びたが…」。先々への不安は大きい。「ベストを尽くしているが、路上で生き残れるようにするので精いっぱい」。「夢は?」と聞くと、「自分の足で立ち直りたいし、他のホームレス状態の人々を助けるようになりたいね」と静かに語る。