ファン付き作業服 酷暑下の使用は注意 着用の目安30~35度
「涼しい」と「熱中症予防」は別
電動ファン付き作業服の熱中症対策としての効果を示すために、メーカーや販売業者に使われるのがサーモグラフィーの画像だ。使用後に体の温度が下がったことを視覚的に強調する宣伝をよく見かける。この点についても労働安全衛生総合研究所の時澤健主任研究員に見解を求めた。 時澤氏は「サーモグラフィーで写るのは皮膚温で深部体温とは別」と説明する。その上で「皮膚温が下がることで、涼しいと感じる効果があるのは間違いない」と話す。 検証ではファン付き作業服の有無で深部体温の差は生じなかった。一方で、作業服内部の皮膚温を下げる効果は確認されていた。 人が暑さを感じるのは「皮膚感覚による部分が大きい」と時澤氏。ただ、着用した人が涼しさを感じても、深部体温が下がらなければ「熱中症を防ぐことにはならない」(時澤氏)。そうした認識を持ってファン付き作業服を利用するよう警鐘を鳴らす。 いまだ残暑は厳しい。総務省消防庁によると、2023年は9月18日から10月1日までの間、2118人が熱中症にかかって救急搬送されており、引き続き警戒が必要だ。年々、暑さが厳しくなる中、ファン付き作業服を使うべきかどうか。改めて時澤氏に尋ねた。 作業環境の気温が30~35度であれば、「着用を薦める」と時澤氏。通常、作業服内の皮膚温は35度前後で「それより低い温度の風が入ってくる分には、体に悪い影響はない」と説明する。 熱中症を防ぐ効果は得られなくても、暑さの感覚や喉の渇きが抑えられるため「作業効率や注意力低下を抑える効果が期待できる」という。体が受ける負担は変わらないので、時澤氏は「つらい、きついという感覚に頼らず、未着用時と同じように、給水や休憩を挟むことが大事」と話す。 気温が35度を超えた場合は、体に熱をためてしまう可能性もあるため、ファンのスイッチを一度切るよう促す。気温が下がってきたら、再び動かすといった使い方を勧める。 単体では熱中症対策の効果が認められないファン付き作業服。だが、下に着る肌着を湿らせておくと、水が蒸発時に熱を奪っていく「気化熱」の作用で「効果的に深部体温を下げることができる」(時澤氏)。 やり方は水に浸して、よく絞った肌着を着用するだけ。化学繊維より綿製の肌着が向く。高温下で作業すると2時間程度で乾くため、休憩の際、霧吹きで肌着を再び湿らせると長く効果が続く。時澤氏は「費用もかからないので、取り入れてほしい」と呼びかける。 メッセージをくれた男性に、取材で得た情報を報告した。男性は外気温が35度以上となる日が年々増えていることに触れ、「外で働く全ての人に、適切な使い方が広がってほしい」と願った。(金子祥也)