「大国に忖度が過ぎる」中国・日本人刺傷事件の初公判で内容公表に応じず、林官房長官に身内からも弱腰批判
林芳正官房長官は10日の定例会見で、中国の蘇州市で日本人母子と中国人女性が切り付けられるなどして死傷した事件の初公判を巡り、記者団から内容の公表を求められたが、「逐一説明することは差し控える」と応じなかった。前日の会見では沖縄県内で続発する米兵による性的暴行事件について政府としてのコメントを拒否したばかり。「2日続きの弱腰姿勢」(自民幹部)に、身内の与党内からも「米中など大国への忖度(そんたく)が過ぎるのでは」との批判が出始めている。 事件は昨年6月に蘇州市で発生。バス停でスクールバスを待っていた日本人母子が刃物を持った50代の男に襲われ負傷。その際、バス案内係の中国人女性が刺殺された。男の初公判は今月9日に地元の裁判所で開かれ日本メディアには非公開。在上海総領事館員が傍聴したという。中国当局からは男の罪名や犯行動機などは明かされておらず、総領事館も公判内容についてコメントしていない。 10日の会見で記者団から「公判内容について政府が把握している状況と、犯行動機の解明に向けて政府として取り組む考えは」と問われた林長官は「裁判では検察、被告双方の間で一定のやりとりがあった」と認めたが、「裁判は終結しておらず、現時点で日本政府としてその逐一を説明することは差し控える」と内容説明を拒んだ。 その上で「最終的な事実関係の認定は判決において行われると理解し、被害者家族のご意向も踏まえつつ日本政府としてもしかるべく説明をしていく考えだ」と「家族の意向」を持ち出し今後の詳述を避けるための予防線も張った。政府側から与党への説明によると、次回の公判で判決が言い渡される見通しという。 SNS(交流サイト)上では「米兵」「初公判」などのタグで沖縄や中国の事件を巡る日本政府の対応への批判や疑義が後を絶たない。自民の外交部会メンバーは「沖縄の件も中国の件も政府の対応は後手後手だ。大国への遠慮がある」と指摘。長官会見を巡っては「世界中から注目されている。それなのに『再発防止』を繰り返すだけでは実効性も乏しい。日本政府の方から進んで怒りや懸念を発信し、動機の解明を促すような姿勢を強めたほうが良い」と話した。 折しも10日、中国・深セン市で昨年9月に日本人の男子児童が刺殺された事件を巡る初公判が今月24日に開かれることが分かった。日本側は日本メディアなどへの裁判公開を求めていく構えだが見通せない状況といい、新たな火種となる懸念も高まっている。
神奈川新聞社