【警鐘】「真っ先に犠牲になるのは、女性と子供だ」――“欧州の知性”ジャック・アタリ氏が予測する「世界的脅威」
2050年のアメリカは、経済、地政学、文化の面で支配的な勢力ではなくなる。ただし現状、同国の次に世界の経済と政治の「心臓」となれる国は存在せず、この「《心臓》なき《形態》」という袋小路を突き進もうとすると、人類は「気候」「超紛争」「人工化」という3つの致命的な脅威に直面することになる――。ソ連の解体やウクライナ危機など数々の世界的危機を予見してきた“欧州の知性”、ジャック・アタリ氏はこのように予測します。アタリ氏の著書『世界の取扱説明書』(林昌宏訳、プレジデント社)より一部を抜粋し、本稿では「超紛争」について見ていきましょう。
----------------------------------------------- 読者は、大げさだと思うかもしれない。しかしながら、今後の30年間、無策と先送りに終始するのなら、人類は新たな「心臓」をつくり出すことができずに、「《心臓》なき《形態》」へと迷い込む。そこでは、自分たち自身が生み出す3つの脅威が具体化し、人類は身を守る術を見出すこともなく一掃されるだろう。 -----------------------------------------------
2050年ごろに直面する「超紛争」
カリフォルニアの「心臓」が消滅する時期、中国がカリフォルニアに代わって「心臓」になることに失敗する時期、市場が国家に勝利する時期、気候変動の影響が耐え難くなる時期などよりもずっと以前に、水資源、食糧、一次産品、富の公正な分配、領土の拡大、分離独立、世界からの孤立、世界の征服、信仰の押し付け、異なる信仰との対立、価値観の確立、外国人あるいは自国人の追放をめぐる戦いが起こる。 気候変動、そして世界各地での教育制度をはじめとする社会制度の崩壊(とくにアフリカと中東)により、上位中産階級を除き、非識字率が上昇する。その結果、多くの国では、宗教が権力を握る。女子だけでなく男子も、宗教教育しか受けられなくなる。彼らは、洗脳された後に戦士にさせられ、異教徒を抹殺し、信仰心のない者たちが暮らす土地を武力で征服しようとする。 多くの地域では、民間、国、国際機関の民兵による軍事独裁政権が、悪党や世界の濁流から地域住民を保護するという口実で、地域の富の支配権を握る。いつものように、こうした蛮行のおもな犠牲者は、女性と子供だ。 「心臓」の地位をめぐる争いによって、既存の紛争が激化する恐れがある。たとえば、ロシアとウクライナ、アフリカの角(つの:〔アフリカ大陸東端の半島〕)、湾岸諸国などで進行中の紛争だ。これらの他にも、ロシアとヨーロッパ、北朝鮮と韓国、日本と北朝鮮、中国と台湾(今日、世界のコンテナ船の半数は、両国を隔てる海峡を通過している)、中国と日本、ロシアと日本、インドとパキスタン、インドと中国、イスラエルとその近隣諸国(イランとパレスチナなど)、トルコ・イラク・シリアの間、アルジェリアとその近隣諸国、北アフリカとサブサハラ以南など、現在は小康状態にある紛争も激化することが予想される。とくに、コンゴ民主共和国とスーダンなどにおいて進行中の数多くの紛争は、さらに残虐で大規模な戦いに発展する恐れがある。またしても、これらの紛争で真っ先に犠牲になるのは、女性と子供だ。 北極圏では氷帽(ひょうぼう)の縮小により、将来の海路とこの地域の地下資源をめぐって近隣諸国の間で争いが起こるだろう。 EUが崩壊すれば、フランスとドイツの間で最悪の事態が再燃するかもしれない。 これらのほとんどの紛争には、アメリカ、中国、ロシア、EUが関与することになる。しかしながら、民主主義国同士が戦火を交える可能性は、依然として低い。