【警鐘】「真っ先に犠牲になるのは、女性と子供だ」――“欧州の知性”ジャック・アタリ氏が予測する「世界的脅威」
「新たな武器」は民兵やテロリストなどの手にもわたる
監視、抑止、破壊、サイバー攻撃などに関する新たな武器を入手するのは国家だけではなく、これらの武器は、民兵、海賊、テロリスト、マフィア、麻薬カルテル、宗教原理主義者の間にも出回る。超小型のドローン、各種ロボット、生物兵器、そしてデジタル技術、遺伝学、バイオミメティクス、ナノテクノロジーに基づく合成ウィルスが登場する。 警察官と同様、身体能力を増強した「拡張兵士」は、ほとんどの武器、そして極寒や酷暑から身を守ることができ、偵察および殺人ドローンの群れを従えて戦地に出向く。 今日の大陸間弾道ミサイルの5万倍の速度で、命中精度もきわめて高いレーザー砲が開発される。 干ばつ、降雨、嵐、疫病を人為的に引き起こすことができるようになる。 世界中でサイバー戦争が起こる。軍隊、病院、司令塔を機能不全に陥れることに関して、ネットワークと人工知能を対象にするサイバー攻撃は、従来型の爆撃よりも効果を発揮する。 人工知能は、人間なら躊躇するような過激な決断をくだす。その結果、人工知能を利用する側が、人工知能に脅かされることさえある。人工知能が特定の人間集団、あるいは人類全体に戦争を仕掛けることさえ考えられる。 フェイクニュースにより、憎悪がかき立てられ、スケープゴートが名指しされ、紛争が勃発する。 全体主義の国家から大勢の人々が逃げ出し、民主主義国へとなだれ込む。
誰も反対できないまま、多くの国が核兵器を保有することになる
『世界の取扱説明書』第5章で述べたように、多くの国境が変動するだろう。ロシアは3つに分断され、1つめはヨーロッパ、2つめの極東部分は中国、3つめはトルコに併合される。ちなみに、トルコは中央アジアの大国になるかもしれない。シリアとイラクは分裂する。マリ、ナイジェリア、コンゴ民主共和国などのアフリカ諸国は解体される。 そして、誰も反対することができないまま、多くの国が核兵器を保有することになる。北朝鮮の核保有を容認すれば、国際社会は、北朝鮮の近隣諸国である韓国、日本、オーストラリアの核保有を阻止できなくなる。ブラジルも、核保有に意欲を見せるだろう。イランも、まもなく核開発に必要なすべての段階を終える。そうなれば、サウジアラビアも核兵器を保有しようとするに違いない。ナイジェリアも、核保有に意欲を示すだろう。核保有国が増えれば増えるほど、当然ながら核兵器が利用されるリスクは高まる。 【著】ジャック・アタリ(Jacques Attali) 1943年アルジェリア生まれ。フランス国立行政学院(ENA)卒業、81年フランソワ・ミッテラン大統領顧問、91年欧州復興開発銀行の初代総裁などの、要職を歴任。 政治・経済・文化に精通することから、ソ連の崩壊、金融危機の勃発やテロの脅威などを予測し、2016年の米大統領選挙におけるトランプの勝利など的中させた。 林昌宏氏の翻訳で、『2030年 ジャック・アタリの未来予測』『海の歴史』『食の歴史』『命の経済』『メディアの未来』(プレジデント社)、『新世界秩序』『21世紀の歴史』、『金融危機後の世界』、『国家債務危機――ソブリン・クライシスに、いかに対処すべきか?』『危機とサバイバル――21世紀を生き抜くための〈7つの原則〉』(いずれも作品社)、『アタリ文明論講義:未来は予測できるか」(筑摩書房)など、著書は多数ある。 【訳】林 昌宏 1965年名古屋市生まれ。翻訳家。立命館大学経済学部卒業。 訳書にジャック・アタリ『2030年ジャック・アタリの未来予測』『海の歴史』『食の歴史』『命の経済』『メディアの未来』(プレジデント社)、『21世紀の歴史』、ダニエル・コーエン『経済と人類の1万年史から、21世紀世界を考える』(いずれも作品社)、ボリス・シリュルニク『憎むのでもなく、許すのでもなく』(吉田書店)他、多数。
ジャック・アタリ,林 昌宏