PayPayはなぜ「当たり!」だけに頼らないのか? QRコード決済を超えた、意外な一手
デジタル化がもたらす具体的効果
実際、こうしたリアルタイム性の高さは、キャンペーンの効果に結びついている。 「期間中に30万人以上の新規申し込みがあった」と大島氏は明かす。これは通常の2カ月間の新規発行数に匹敵する。ユーザーが1200万人に達しているPayPayカードとしても小さくない数字だ。また、配布したスクラッチくじは4200万枚を超えた。さらに、8割以上のユーザーがPayPayカードの継続利用意向を示しているという。 この成功を支えているのが最新のテクノロジーだ。ここで、クレカ決済の仕組みを理解する必要がある。 通常、店舗でカードを利用すると、まず「オーソリ」と呼ばれる与信確認が行われる。しかし、実際の決済(清算)は約1カ月後だ。オーソリの段階でカード会社に送られてくるデータは極めて限られており、どの店舗で使われたかなどの詳細情報は含まれない。 こうした課題を克服するため、PayPayカードは数年かけてシステムを刷新し、PayPay加盟店情報なども活用して精緻な加盟店データベースを構築した。このデータベースにより、オーソリ段階の限られた情報から、どの店舗での利用かを即座に特定できるようになった。 さらに、PayPayアプリとの高度な連携も実現したことで、初めてリアルタイムに結果を確認できるキャンペーンが実現できたわけだ。
プラスチックカードの意外な重要性
PayPayといえば、スマートフォンを使ったQRコード決済が有名だ。しかし、同社が今力を入れているのは、意外にもプラスチックカード「PayPayカード」だという。なぜなのか。 PayPayには、アプリ上で赤く表示される残高払い、青のPayPayクレジット、黒のPayPayカードの3つの決済手段がある。赤の残高払いは、事前にチャージした残高からの支払いで、いわゆるQRコード決済の代表格だ。 青のPayPayクレジットは、PayPayアプリ内で利用できるクレジット機能である。事前のチャージは不要で、当月の利用額を翌月にまとめて支払える。PayPayカードユーザーが利用できるが、クレカから残高にチャージしているわけではなく、カードの与信を用いてPayPayの後払いを実現している形だ。 黒のPayPayカードは、実際のプラスチックカードが発行される従来型のクレカだ。店頭での利用やオンラインショッピングなど、幅広い場面で使用できる。 このうち、同社が今、特に注力しているのが青と黒だ。 大島氏は「決済の方法はお客さまが判断すること。その中で選択肢を広くカバーして提供していきたい」と語る。つまり、コード決済だけでなく、カード決済のニーズにも応えるという戦略だ。 一見すると、黒のPayPayカードは、アクワイアラ(加盟店契約会社)やブランドネットワークへの手数料が発生するため高コスト、逆に赤い残高払いや青のPayPayクレジットは、PayPay社内で完結するためコストが小さいように思える。 しかし、実際は青と黒のほうが収益性が高いという。その理由は主に2つある。1つは決済額の違いだ。クレカ決済は、QRコード決済に比べて単価が高くなる傾向がある。単価は、コード決済の赤い残高払いのほぼ倍になっているという。もう1つは金融収益だ。クレカならではのリボ払いなどの手数料が、収益を押し上げる。 コード決済の代表格であるPayPayだが、PayPay経済圏全体で見れば、プラスチックカードの存在感は決して小さくない。PayPayの戦略は、単にQRコード決済の普及だけを目指すものではない。スマートフォンとプラスチックカード、そしてクレジット機能を組み合わせた多角的なアプローチで、決済市場全体のシェア拡大を狙っているのだ。