大阪地検元トップの性暴力事件を生んだ「検察システム」の宿命 元検事の弁護士が指摘する相次ぐ不祥事の”根っこ”
●ハラスメントを生む「検察システム」の宿命
検察で相次ぐ不祥事。市川弁護士はその背景に「検察庁法の相反する規定」があると説明する。 それが、個人個人の検察官が独立して職務を遂行する「独任制官庁」という制度と、各検察官は上司の指揮監督に従わなければならないという「検察官一体の原則」だ。 つまり、検察官には、起訴するかどうかを単独で判断する権限があるとされている一方、その判断を実行するためには上司の検察官の決裁が必要になるという特徴があるというのだ。 「検察は原則としてチームプレーで動くので、どうしてもリーダーと部下という仕組みになりやすい。独任制官庁と言っても部下は上司の言うことを聞かなければなりません。検察庁のシステムとしての宿命ですが、この制度そのものが危うい。そもそもハラスメントが生じやすい素地を持っているのです」 被害者の女性検事がすぐに被害を申告できなかった理由には、北川氏から「(性加害が)公になれば私は生きていけない、自死を考えている」「検察庁に大きな非難の目が向けられ、業務が立ち行かなくなる。総長の辞職もありえる」「私のためでなく、あなたの愛する検察庁のため告発はやめてください」などと伝えられていた事情もあったとされる。 これに対して、市川弁護士は大阪地検を含む「関西検察」にあるという特有の文化を踏まえて、こう説明する。 「検察は一般の人が思っているより何倍も閉じた世界です。外からの批判に耳を傾ける素地がない。中でも関西検察は家族的な雰囲気があり、さらに閉じています。現職の時から検察OBと飲み会をしている検事も多い」
●変わらぬ検察 「国会で問題にすべき」
検察官は起訴するかどうかを決められるため、逆に犯罪を世の中から隠すことができるともいえるほど強大な権限を持つ。その検察内部で起きた事件だけに徹底的な調査が求められることは必然だ。 「今回の事件の教訓として、検察組織はハラスメントが起きやすい職場であるということにもっと自覚的になって調査をすべきです。特に、検事と(検事を補佐する職員である)検察事務官の間にはもっと多くのハラスメントが存在する可能性があります。全国の検察事務官からも意見を聴取した方がよいと思います」 検察では今、様々な問題が相次いでいる。静岡県一家4人殺害事件で死刑囚とされた袴田巌さんの再審で無罪が言い渡された後、畝本直美・検事総長が控訴断念を表明する際に袴田さんをいまだに犯人視する内容の談話を公表した。 大阪地検特捜部に逮捕、起訴された不動産会社の社長が無罪となったプレサンス事件では、違法な取調べをしたとされる検事について大阪高裁が特別公務員暴行陵虐罪で付審判開始とする決定を出した。 その他にも、1986年に福井市で起きた女子中学生殺害事件に関して、名古屋高裁金沢支部が裁判やり直しの決定を出した際、被告人に有利な証拠を検察が隠していたことなどが批判された。 市川弁護士は2010年に発覚した大阪地検特捜部の検事による証拠改ざん事件を引き合いに出し、最後にこう提言した。 「あの時検察が変わりかけたのは確かだと思います。でも、息を吹き返してしまった。当時の反省や教訓は今の検察に残っていません。根っこにある問題は検察庁の体質です。ハラスメントに関する情報がちゃんと組織の上層部に伝わるような環境整備が必要です。検事総長や検事長を証人喚問するなど、国会でもきちんと今回の事件を問題にすべきだと思います」