違法盛り土の撤去 悪質業者から費用回収難しく 静岡県内で相次ぐ行政代執行
2021年7月に発生した熱海市伊豆山の大規模土石流以降、違法な盛り土の撤去などを行う県の行政代執行が相次いでいる。代執行は、住民の安全や生活環境を守るための最終手段だが、全国的に盛り土行為者から工事費用を回収できた例はほぼなく、多額の税金が費やされているのが実情だ。専門家は悪質業者の「逃げ得」を防ぐためには行政の厳格な対応が不可欠と強調する。 違法盛り土を対象にした県の代執行は、島田市福用の採石場跡地(22年9月~)、熱海市伊豆山の逢初(あいぞめ)川源頭部(22年10月~23年8月)、静岡市葵区杉尾の砂防指定地(23年11月~)と続いている。杉尾に隣接する日向地区でも県と静岡市が盛り土の安定化を図る代執行に年内にも着手する。 熱海市伊豆山では、不安定な盛り土の撤去などに約4億6200万円、汚染土砂の県外処分に約6億6700万円を要した。県は前土地所有者に納付を命じたが、前所有者は不服とし、命令取り消しを求めて県を提訴している。島田市福用の盛り土は、16年に倒産した採石業者が無届けで造成した。国道への流出が相次ぎ、県は事実上不在の業者に復旧命令を出した上で、代執行に踏み切った。県森林保全課によると、一部で復旧工事を進めているが、全体の工事費用は未定で「求償する相手がいない」のが実情という。 静岡市葵区杉尾では、残土処分会社が造成した違法盛り土の撤去作業が続いている。費用は概算で約12億円に上る。日向地区の巨大盛り土も同じ業者が造成した。県は土砂を場外搬出せず、勾配の安定化や補強工事を行う方針。一部で汚染土砂が確認されているが、地中に封じ込める。費用削減と安全確保の両立を図る苦肉の策だが、費用回収は見通せていない。 静岡産業大の小泉祐一郎教授(公共政策学)は「違法行為に停止命令を出さずに放置したことがそもそもの問題。代執行では対応が手遅れと行政は肝に銘じてほしい」と指摘する。盛り土の許可手続きで業者の資力や信用性を審査し、「善良な業者と悪質業者を見極めることも重要」と話す。 ■牧之原市は「保証金制度」 業者の資力確認に効果 不適切な盛り土の造成を防ぐために、牧之原市は許可申請した事業者が市に「保証金」を預託することを条例で定めている。市都市住宅課によると、保証金は工事中の災害復旧や不適切な盛り土の是正に充てるためで、行政代執行の財源を確保することが目的ではないという。 保証金は搬入土砂1立方メートルあたり100円で、盛り土に問題がない場合は返金する。これまでに保証金を使った例はないという。担当者は「事業者の資力や信用を審査する上で、一定の効果がある」と話す。 条例は熱海市伊豆山の大規模土石流以前の2015年12月に制定した。当時から、資力がないために不適切な盛り土を是正しない事業者が問題になっていた。市は、その対策として県外の条例を参考に保証金制度を設けた。担当者は「代執行は最終手段であり、その前に指導や命令を徹底することが大前提」と話した。
静岡新聞社