「王道」を革新する 穴窯に向き合い続ける陶芸家の美学
開窯220年、窯元の継承者が目指す未来
幸兵衛窯の当主である加藤は経営者としても多忙である。外国人向けの旅行ガイド「ミシュラングリーンガイド」で2つ星に選定された幸兵衛窯は、ギャラリー、サロンを併設する開かれた窯元だ。また、各地のクリエイターとの連携も積極的に行っている。 例えば、岐阜の山田珈琲とのプロジェクトでは、コンペで募集した図案を幸兵衛窯で絵付けし、シリアルナンバー付のイヤーマグを制作した。 陶芸家、当主として、歴史ある窯元を継承することに対して「若い頃は抵抗があった」が、一度美濃を離れた経験が、美濃桃山陶への回帰に繋がったと話す。 「祖父、父からやきものの技術を直接教わったことはない。美大時代は京都に身も心も染まり、現代アートにもはまった。書の師である石川九楊先生との出会いも学生時代。結局、人としての器をいかに醸成させるかが、茶碗にも全部出てくる。経営も人としての深みや幅を出すことにつながっている」 幸兵衛窯は六代、七代が研究を重ね続けたラスター彩、三彩、青釉などのペルシアと日本文化が融合した作風で知られている。八代目の加藤は桃山陶とまるで対局だが、作家としての技術継承は今後どうなるのだろうか。 これについては、「半白」展の茶盌での中でたった一つだけ、異彩を放っていた「三彩天目」が未来を暗示しているようだ。華やかなラスター彩、三彩は、異素材とのコラボレーションなど幅広い可能性も期待できる。いずれ引き継がれれば、亮太郎の「真行草」の振り子は今よりダイナミックに揺り動くだろう。 加藤亮太郎の展覧会は、名古屋、東京で開催中だ。2024年12月にはシンガポール、翌年はパリと海外展開も予定されている。「織部の精神」は、海外にどのように受け止められるのか。今後の活動に注目していきたい。 「特別展 加藤亮太郎 半白記念展」 開催日程:2024年10月1日(火)~11月17日(日) 会場:古川美術館分館爲三郎記念館(愛知・名古屋) 加藤亮太郎◎幸兵衛窯 八代目、陶芸家。美濃桃山陶の伝統に正面から立ち向かい、穴窯焼成で茶盌をライフワークに制作している。書と陶が融合した作品や、異素材とのコラボレーションも積極的に手掛ける。これからの美濃を牽引すると期待される存在。「2023年度 日本陶磁協会賞」受賞。
Forbes JAPAN 編集部