「王道」を革新する 穴窯に向き合い続ける陶芸家の美学
革新のヒント「織部の精神」
穴窯での土と炎の対話を経て、命が吹き込まれた茶盌の一つに、加藤の最新の代表作、志野茶盌「半白」がある。 従来の志野が持つ半筒形という枠から離れ、コロンとした丸みが愛らしい志野茶盌だ。志野釉特有の柚子肌、手に吸い付く肌触りは柔らかで繊細な質感だ。一方、釉薬による乳白色と緋色のコントラストは強く大胆で、素朴な質感が生かされた土見せの高台との対比も際立っている。桃山に生まれた志野を、令和の世で大きく進化させながらも、清清とした優美な佇まいに志野の風格が備わっている。 しかし、いくら穴窯が「錬金窯」だったとしても、伝統的なやきものの世界で、偉大な先人と異なる特徴を生み出すのは至難の業だ。現代アートとの融合で変化を求める道もあるが、加藤は王道の茶碗をライフワークに選んでいる。やり尽くしたようにも見える茶盌の世界で、生みの苦しみはどう乗り越えるのか。これには「織部の精神」が創作の根底にあるという。 安土桃山時代の武将であり茶人でもあった古田織部は、伝統的な美意識を大事にしながら常識に囚われない自由な発想で、茶の湯、陶芸の世界を進歩させた。「異なる素材、テクノロジーを融合させて、新たなものを生み出すのが織部の精神。茶盌だけでなく、書と陶が融合した作品や、異素材とのコラボレーションも積極的に取り組んでいる」と加藤。よそものと融合しながら変革する手法は、現代の創造的ビジネスにも通じるやり方だ。 ■「真行草」を大胆に揺らす そんな加藤の茶盌を一同に鑑賞できるのが、古川美術館分館爲三郎記念館(名古屋)で開催中の「特別展 加藤亮太郎 半白記念展」だ。半白(五十歳)の節目にちなみ、五十の新作茶盌を揃えた。志野、瀬戸黒、織部など桃山陶を代表する茶盌に、亮太郎独自の技法である瑠璃黒、熟柿なども加わり、まるで茶盌の博覧会のようだ。 また、花入、書、書と陶が融合した作品も展示されており、加藤亮太郎という陶芸家が茶盌だけではない、多才なアーティストであることを再認識させる。 創作の幅広さの根底に「織部の精神」が流れているのだとしたら、陶芸家の山の高みを築くのは「真行草(しんぎょうそう)」だ。 「真行草」は「真(楷書)」「行(行書)」「草(草書)」のように、書道や茶道で使われる日本特有の美意識の表現だ。亮太郎は三角形の振り子をイメージし、中心にある「真」の山を高くするために「行草」の幅をあえて大胆に揺らすよう、セルフコントロールしながら創作を続けている。 「私にとっての『真』は、美濃の王道の志野と瀬戸黒。『行草』にあたる織部や瑠璃黒、書やコラボ作品をやって、その経験を再び『真』の志野と瀬戸黒に活かす。日本の『あそび』という余白の概念にも通じるが、作家である自己を揺らしながら高みを目指している」