ガザ地区の犠牲者7割は女性と子ども。日本からも声を上げる勇気を
イスラム組織ハマスがイスラエルに攻撃し、イスラエル軍がガザ地区に侵攻を開始してから、半年が過ぎました。ガザの保健当局によると、イスラエル軍の攻撃による死者数は3万4千人を超え、そのうち7割を女性と子どもが占めるそうです(4月19日現在)。各国では街頭やSNSでイスラエルの非人道的行為に抗議する市民の輪が広がっています。他国に比べて市民活動への関心が低いとされる日本でも、デモに参加する人たちはいます。その一人で、映画プロデューサー、通訳・翻訳家である増渕愛子さん(35)に伺いました。
ガザの惨状、少ない日本語での情報
国連女性機関によると、ガザで殺害された女性のうち6千人が母親で、1万9千人の子どもが孤児になったとみられます(4月16日の報告書)。清潔なトイレや水、生理用品がなく、下痢などの感染症も広がっています。イスラエル軍は病院や学校も無差別に攻撃し、ガザで暮らす人たちは一瞬たりとも安全を感じられなくなっています。 そんな状況に対して声を上げた増渕愛子さんは、東京生まれ・育ち。現在、米ニューヨークと日本を行き来して、映画やアートの分野で活躍しています。濱口竜介監督が「ドライブ・マイ・カー」で米アカデミー賞国際長編映画賞を受賞したときは、通訳として監督と共に壇上に上がりました。記者は、増渕さんの人柄や名通訳ぶりから伺える言葉のセンス、人権意識の高さを間近に見てきました。 増渕さんは「昨年10月7日以降の出来事について話すにあたっては、まずはガザ地区の歴史から考えてほしい」と話します。イスラエル建国によってパレスチナ人が故郷を追われて75年以上が経っています。イスラエルは1967年の第3次中東戦争でヨルダン川西岸とガザ地区を占領、2007年からはガザ地区の人や物資の移動を厳しく制限するようになり、周囲には壁が張り巡らされました。こうしてガザ地区の人々は、電気や水までも制限された厳しい状況に追い込まれてしまったのです。 昨年10月、イスラエル軍がガザ地区に大規模攻撃を始めてすぐ、ガザ地区の人たちはインスタグラムなどSNSを通じて、幼児や市民が殺されていく状況を発信し続けてきました。米国内ではすぐにイスラエルへの抗議デモが起き、増渕さんもニューヨークのデモには何度も参加しました。 増渕さんは、映画文化の中でパレスチナについて学んだそうです。日本のインディペンデント映画界(大手の制作配給会社に属さない自主映画界)ではこれまで、パレスチナ問題をテーマにした作品がいくつも作られてきました。 例えば足立正生監督(84)は、1970年代にパレスチナ解放人民戦線のゲリラ隊に加わり、パレスチナゲリラの日常を描いた「赤軍-PFLP・世界戦争宣言」(1971年)を制作しました。ドキュメンタリー映画「阿賀に生きる」で知られる故・佐藤真監督は、パレスチナ周辺で何が起こり、何が考えられているかを提示した「エドワード・サイードOUT OF PLACE」(2005年)を撮っています。 増渕さんは今回の侵攻以前から、イスラエルが支援する企業の商品は買わないなど、日常でできる範囲のことはしていたそう。「そこに侵攻が起き、それから半年以上経っても虐殺が終わらないどころか加速している。今となっては、自分ももっと前から声を上げておくべきでした」と振り返ります。 イスラエル侵攻後、日本でガザの現状がどのように伝えられているかを調べるにあたり、日本語での情報量の少なさに愕然としたそうです。このため翻訳家の仲間達と手分けして、英語で発信される情報を日本語訳して、「#ガザ投稿翻訳」とハッシュタグをつけて、ガザのジャーナリストが英語で発信をした言葉などをSNSで紹介し始めました。 "Dier el-Balah にいるパレスチナ人のお父さんが子供たちのためにパンを買いに家を出た。帰って来たら、家はイスラエルの空爆により破壊されていて、子供達は殺されていた。(2月13日、増渕さんのXの投稿)" 「私たちと同じように思った人たちは、他にもいます」と増渕さん。「インスタグラムではイスラエルによるパレスチナ占領問題についての情報を日本語でシェアするアカウントも立ち上がりました。日本在住のパレスチナ人や、パレスチナの友人たちのためにハンガーストライキをした詩人の松下新土さんらも発信しています」 その一つ、日本の「<パレスチナ>を生きる人々を想う学生若者有志の会」は昨年10月下旬、アラブ文化研究者の岡真理さんを招いてイベント「ガザを知る緊急セミナー ガザ 人間の恥としての』を開きました。増渕さんもオンライン配信をきいて衝撃を受けたと話します。 岡真理さんはイベントで、パレスチナの知り合いから届いた、多くの子どもたちが殺されている状況について紹介しました。10月7日のできごとを背景から説明し、第二次大戦のホロコーストからイスラエル建国に至ったいきさつと現状を説明しています。