交通系ICカードは曲がり角、多様化するキャッシュレス決済…コロナ禍で環境一変しポイント終了や撤退も
さらに熊本市のバス事業者5社は今月、「システム更新の費用負担が重い」として、全国交通系ICのシステムから離脱した。利用者が多い地域限定の交通系IC「くまモンのICカード」は残した。木村敬・熊本県知事は15日の定例記者会見で、「バス会社の経営が厳しく、全国交通系ICの維持が運賃の上昇などにつながりかねないという判断だった」と理解を示した。
スマホかざして乗車
都市部の公共交通網で新たな決済手段として台頭しているのが、クレジットカードによる「タッチ決済」だ。訪日客の増加が背景にあり、九州でも福岡市地下鉄の全線で本格導入されているほか、JR在来線の一部などで実証実験が進んでいる。
JR九州は加えて、スゴカを導入していない西九州新幹線(武雄温泉―長崎)などで、紙の切符の代わりにスマートフォンに表示したQRコードで乗車できるサービスを9月に始めた。スゴカのようにQRコードを改札口の機器にかざすだけで乗り降りできる利点があり、同社は25年度中に在来線特急の全区間に拡大することも検討している。
交通事業に詳しい日本総合研究所の西本恒シニアコンサルタントは「交通系ICカードは利便性が高い一方でコスト面から重荷になるケースもあり、収益とのバランスが重要だ。事業者には、地域の公共交通を維持するという観点で最善の判断を行うことが求められる」と指摘している。
コード決済が電子マネー上回る
ニモカやスゴカなどは商業施設などでの買い物にも利用できることから、交通事業者は加盟店の拡大を進めてきた。
ただ、近年は「PayPay」などQRコードによる決済が急速に普及しており、経済産業省によると、QRなど「コード決済」の金額は2022年に7.9兆円と、交通系ICなど「電子マネー」の6.1兆円を初めて上回った。23年はコード決済が10.9兆円、電子マネーが6.4兆円と、差が拡大した。決済額が最も大きかったのはクレジットカードの105.7兆円だった。
西日本鉄道は、交通系ICの担当部署名を21年に「ICカード事業部」から「スマートペイメント推進部」に変更するとともに、九州の交通系ICで最も多い559万枚を発行するニモカのデータ活用法を模索。承諾を得られた利用者について、商業施設などでの購入履歴や年齢、性別などのデータを分析し、効果的な販売促進策につなげることを検討している。