躍進するスペインの新政党「ポデモス」は極左なのか 首都大学東京教授・野上和裕
ポデモスの発起人のほとんどは、40代までの若手の大学教授たちです。特に日本の東大に相当するマドリードのコンプルテンセ大学の政治学社会学部に集中しています。書記長のパブロ・イグレシアス氏は、1978年生まれ36歳。常にノーネクタイで、カジュアルなシャツ姿です。どこにでもいる若者のようですが、2008年に提出した博士論文が高く評価され、2011年まで母校でも教鞭を執った大変なインテリです。 イグレシアス氏は、政治学社会学部の同僚でもあり、ポデモスのリーダーである、フアン・カルロス・モネデーロ氏(1963年生まれ)、イーニィゴ・エレホン氏(1983年生まれ)などとともに、中南米の左翼政権を評価し、ベネスエラのチャベス政権の諮問委員を務めました。2010年からは、反グローバリズム運動や環境運動などいわゆる新しい左翼に近い思想家や大学教授を数多く招く(インターネット中心の)討論番組「La Tuerka」の司会者を務めました。イグレシアス氏は、保守的な傾向を持つ一般のテレビ局の討論番組にも呼ばれ、たった一人で緊縮策を批判する姿が全国的に知られるようになりました。
ポデモスを結党した背景とは?
イグレシアス氏たちは、PPとPSOEの二大政党制がつくる特権階層「カースト」が、権力を独占し、政党幹部だけでなく、政府官僚機構、司法府、企業や公社などのポストを独占し、たらい回し人事を行なっていると指摘します。そこで、彼らは、1978年憲法体制を転換し、二大政党制を解体して、政治、経済、社会の民主化を達成しなければならないと主張しています。 スペインでは、さまざまな抗議デモに何十万人もの人が参加します。たとえば、2003年2月の国際的な反イラク戦争のデモでは、マドリードで60万~166万人、バルセロナで70万~130万人の市民が参加しました。 2011年5月15日に発生した「15M運動」では、マドリードの中心地であるソル広場を多くの人が、2か月近く占拠したのです。この運動は、スペインの他の都市に広がっただけでなく、他国にも波及しました。同年9月にニューヨークで行なわれた「ウォール街占拠運動」(Occupy Wall Street)もスペインの15M運動の模倣でした。この運動は、ネット上の「今こそ真の民主主義を!(Democracia Real, Ya!)」という呼びかけから始まったとされます。 ところが、15M運動は成果を上げることができませんでした。実は、参加者の不満は、主に市や州の政権を握る保守の福祉・教育予算削減に向けられており、当時のPSOEのサパテーロ政権に対する抗議でありませんでした。しかし、11月総選挙でPSOEが59議席減の大敗を喫したのに対して、PPが32議席増の(全350議席中)186議席という過半数を獲得し、現ラホイ政権が誕生しました。その保守PPの大勝の一因であるなら、その後の過激な緊縮路線は、15M運動が逆効果であったことを示します。そこで、市民運動に集った人の意思を正確に政治に反映させようというのがポデモスの設立の動機となりました。