一族の子孫の証言と苦しみ

　先に述べたように、これまでドロシーについてほとんど語ろうとしなかったアーノルド家の人々が、長い沈黙を破って新たな事実を明らかにした。 　ドロシーの姪の娘にあたるジェーン・ボルマー氏は、「私がこの事件について初めて知ったのは、30代のときにサンデー・デイリー・ニュース紙の特集を読んだときでした」と振り返る。自分の親族の名前が記事に出ていることに気づいた彼女は、父親にそのことを尋ね、ドロシーの事件について初めて教えられたという。 　ジェーン氏のきょうだいであるマーサ・ラファタ氏は、アーノルド家の人々が事件のことを語らなかったのは、興味本位の報道や根も葉もない噂に傷ついていたからだと言う。「センセーショナルな報道は、今でも家族を傷つけています」 　ジェーン氏は、ドロシーの妹のマージョリーの孫だ。マージョリーは20歳のときに裕福で地位のある男性と結婚したが、後に離婚してフランスに移住した。おそらく悪評を避けるため、マージョリーはやがて「アーノルド」という苗字を使わなくなった。 　マージョリーの娘で、ドロシーの姪（つまりジェーンの母親）のレベッカは、生涯うつ病に苦しめられた。レベッカは、親族が亡くなったときに、ドロシーに関する書類や手紙を受け継いだ。 「母はそれらをすべて処分しました」とジェーン氏の弟で現在67歳のマーク氏は言う。「そこに家族の秘密が記されていたのかどうかも、母がそれを知ったのかどうかも、今となっては分かりません」 　彼女たちは真相の究明を望んでいない。「100年後の今になって事件が解決するとは思いません」とジェーン氏は言い、マーサ氏も「ハッピーエンドがあるとは思えません」と言う。 　けれどもマーク氏だけは楽観的だ。「いつか、我々にDNA鑑定への協力を求めてくる人が出てくるかもしれません。それで真実が明らかになれば、クールでしょうね。何が起こってもおかしくありませんよ」