六代目中村時蔵襲名!初日を迎えて楽屋で語ってくれたこととは?<令和を駆ける“かぶき者”たち>
──初日を迎えて 6月4日に楽屋にて取材 中村時蔵になられたことをどんなときに実感しますか? 時蔵:まだ「時蔵さん」と呼ばれることもあまりないので、全く実感はありません。楽屋に入ってきた時に着到板(出演俳優の名前が記された板)の「時蔵」のところに赤いピンを刺すというくらいですね(笑)。 ──初日にお三輪の姿で花道に出てこられた時、大きな拍手が沸き起こりました。その時の心境をお聞かせください。 時蔵:心境はと申しますと、少し泣きそうになりました。自分はそういう人間ではないと思っていたので、意外でした。 ──『妹背山婦女庭訓』には片岡仁左衛門さんが豆腐買のおむら役で出演されて、劇中に舞台上で襲名披露口上をされています。そのお言葉を隣で聞いているときはどんなお気持ちでしたか? 時蔵:「六代目(中村時蔵)さんは古風な芸風で、必ず歌舞伎界を支える女方になると思っております」というお言葉を毎日皆様の前でおっしゃってくださるので、プレッシャーではありますが、そういう風にならなければならないということをとても感じています。 昨日(3日)の口上では、息子の梅枝が「昼の部は女方の役ですが、夜の部では怪童丸の立役を元気に勤めています」と内容を少し変えて話してくださったりもして、本当にありがたいです。 今回は立役の方が女方の衣裳を着るということでとても苦しくて大変だと思うのですが、松嶋屋のおじ様にはいつまでもお元気で今後の舞台にも出ていただけたらと思っています。 ──楽屋にはお三輪の姿が描かれた画が飾られていますが、どなたの作品でしょうか? 時蔵: 祖父がお三輪を演じた時に、画家の大橋月皎 さんという方が描いてくださったものです。こういう時でないとなかなか機会がないので、楽屋に飾らせていただいています。 ──実際にお三輪を演じてみて、何かこの役の魅力に気づけましたか? 時蔵: 『神霊矢口渡』のお舟のような今まで経験した娘役とは違う、お三輪は別格に難しいお役だと思いました。僕が娘役で想定する演技方法だけでは成立しません。金殿を背景に演じなければならないので、娘ではありますが、舞台空間を埋めるだけの役者としての度量が求められます。 かなりの体力も必要で、うまく配分しなければ息が続きません。そういう状況で無理に声を出そうとすると高い声になってしまうため、娘らしい柔らかさがなくなってしまいます。初日と2日目まではテンションで何とか乗り切りましたが、あのままでは今後続けていけないと思い、3日目からは少し落ち着いて演じることを目指しています。 官女たちからいじめられているところは受け身でいられますが、特に「疑着の相」からが難しいです。今朝、玉三郎のおじ様とお電話で話したときに「女でいてはダメ。女を越えて、すべてを超越していかなければ疑着の相には辿り着かない」とおっしゃっていただきました。頭では納得しました。今は疑着の相のところを抑え気味にしていますが、そこをどのようにしてクリアにしていくのか……、今後の課題だと思っています。