米中の間で揺れるWHO トランプ氏は脱退示唆 習氏は影響力拡大図る 新型コロナ中国公表から5年
2019年12月に中国の武漢市当局が、後に新型コロナウイルス感染症とされる原因不明の肺炎を公表して31日で5年。世界保健機関(WHO)は、テドロス事務局長が発生源となった中国への批判を控えたことで国際的な批判を浴びた。WHOに不信感を抱くトランプ次期米大統領は来年1月の就任初日にWHOからの脱退を表明する方針だと報じられている。新たなパンデミック(世界的大流行)を防ぐ取り組みでも加盟国が一枚岩となれない恐れがあり、国際保健における多国間協調が危ぶまれている。 テドロス氏は、新型コロナの感染拡大の初期に「緊急事態」宣言を見送ったほか、衛生面における習近平指導部の対応について「感銘を受けた」などと称賛した。 当時1期目のトランプ氏は「WHOは中国寄りだ」と反発し、資金拠出を停止。その後、大統領に就任したバイデン氏が拠出を再開したが、トランプ氏のWHOへの不信感は根深い。 一方、中国はWHOを支持する立場を堅持する。WHO支援を通じ、医療体制が脆弱な途上国への影響力拡大を図る考えだ。20年にはWHOに3千万ドル(約50億円)の援助を表明し、米国に次ぐ第2の資金拠出国となった。習近平国家主席が22年に提唱した「グローバル安全保障イニシアチブ(GSI)」では、世界の保健衛生を巡ってWHOの「主導的役割」を支持する立場を表明している。 WHOは現在、コロナ禍で先進国と途上国の間で対策に差が生じた事態を踏まえ、途上国への支援策強化などを盛り込んだ「パンデミック条約」締結に関する交渉を2年にわたって続けている。 テドロス氏は「次のパンデミックは待ってくれない」と加盟国に早期締結を促しているが、ワクチンの技術移転などについて先進国と途上国の隔たりは大きい。加盟国の足並みがそろわない中、米国が実際に脱退すれば、WHOは機能不全に陥ることになりそうだ。(岡田美月)