「株主提案天国」ニッポン 企業はどう向き合うべきか
株主をどう味方につけながら、企業価値を高め、組織の未来を切り開いていくか。企業変革やアクティビスト対策の専門家ふたりが、「モノ言う株主」とのベストな付き合い方を語り合った。 古田温子(以下、古田):ここ数年、日本に来るアクティビストも、アクティビストによる株主提案の数も増えています。一方で、2024年の株主総会を振り返ると、会社提案に対して株主の20%以上の反対を受けた議案がある企業の数は23年より減っています。これは会社提案、特に経営トップの選任議案への賛成比率の低下を意識する会社が、女性取締役を入れる、政策保有株式を売却するなどの具体的な対策を取るようになってきたからだと考えられます。 保田隆明(以下、保田):今年は比較的、アクティビストが注目を浴びた年でした。背景として、アクティビストたちがESGという「錦の御旗」を使って戦略的に株主提案をしていることが挙げられます。「ESGに則した投資をしましょう」というのは責任投資原則(PRI)でも謳われています。多くの機関投資家がPRIに署名しているので、ESGにそうようなもっともらしい提案にはほかの投資家たちも賛同せざるをえません。それによってアクティビストが勢いづいている側面はあると思います。 でも、私はアクティビストが勢いづいている現状を前向きにとらえています。日本の上場企業のROE(自己資本利益率)は、欧米に比べて全体的に低いです。ROEを高めるためには、外部からの圧力もある程度は必要だと思うのです。 古田:私も、適度な刺激があることは、変わることができない日本企業にとっていいことだと思います。上場企業のCFO(最高財務責任者)や経営企画室長などに話を聞くと、アクティビストに対するポジティブな声も聞かれます。彼らは日ごろからIR(インベスター・リレーションズ)活動などを通じて投資家と直接対話をしている人たちです。アクティビストがモノを申してくれることが社内を変えるきっかけになるととらえている人たちもいます。 アクティビストや機関投資家との対話には、企業価値を向上させるヒントが詰まっています。IRやSR(シェアホルダー・リレーションズ)の担当役員に任せるのではなく、社長自らが対話し、投資家の考え方を肌感覚で理解できるようになることが大切です。アクティビストや投資家の提案を精査し、企業価値の向上につながるアイデアはしたたかに活用する。そうすることで企業価値を上げていくというのが、アクティビストとの付き合い方の秘訣だと思います。 保田:一概にアクティビスト・ファンドといっても、半年から1年ほどで売り抜けたいと思っている場合と、長期で付き合いたいと考えている場合とがあります。アクティビストの株主提案の内容が、長期的な企業価値の向上を見据えたものなのかどうかを見極めることも大切です。