「株主提案天国」ニッポン 企業はどう向き合うべきか
アクティビストではない株主をどう味方につけるか
古田:結局のところ、アクティビストは、株式を売却してしまえばその会社とは関係がなくなります。一方、経営者には10年先、20年先の会社のことを考えて戦略を立て、実行する責任があります。アクティビストと経営者との間には、どうしても相いれない部分があります。 ここで重要になるのが、インデックス運用をしている機関投資家や個人投資家の存在です。この方々に向けて、「当社の経営陣が考えていることは、永続的な企業価値の向上にとって大事なのだ」と納得してもらえるストーリーをつくれるかどうか。会社提案に賛同してもらえるかどうかは、ここにかかっています。 保田:アクティビストではない株主をどう味方につけるかは重要なポイントですよね。先日、とある会社の株主総会に参加したのですが、アクティビストと経営陣との間で攻防戦が繰り広げられていました。その様子を会場で見ていたら、周りにいた個人投資家たちから「経営者、頑張れ」という声が聞こえてきました。株主には機関投資家もいれば個人投資家もいます。個人投資家にファンになってもらうことは、自社の戦略を進めるうえでも大切だと思います。 最近さまざまな上場企業の中期経営計画を見る機会があるのですが、ストーリーを語るときには具体的な数字を示すことが大切です。目標値などがないところでいくら議論しても、どうしても絵空事に聞こえてしまう。 古田:そうですね。投資家は、投資先を選定するときに候補となる会社のプロジェクション(予測や見通し)をつくります。売り上げや利益、ROEが将来的にどうなるかをモデルに落とし込み、「3年後にこのくらいもうかりそうだから投資しよう」などと判断するのです。私は企業の中期経営計画の策定支援もしていますが、投資家を引きつけるには財務モデルをつくりやすい中計にすることが重要です。定性的なコメントばかりでは、投資家はプロジェクションをつくることができません。結果的に、投資家から見向きもされなくなってしまう。中計には、会社側は勇気をもって定量的な数字とその裏付けを出す必要があります。でも、数字を出す勇気がないという経営者も多いです。 保田:経営者という立場上、「明確に数字を出すと、未達だったときに責任問題を問われる可能性がある。その状況は避けたい」という気持ちが芽生えがちです。また、経営者としては「数値目標」を掲げたつもりでも、株主サイドは「コミットメント」(約束)だととらえることが往々にしてあります。数字を示すときには、あくまで目標だということも明確に伝えるべきです。 古田:もうひとつ、会社サイドと投資家との間のズレが大きいのが、どの数字を重視するかです。会社サイドは売上高や営業利益などの絶対額を増やしたいと考えがちです。一方で、投資家は株価の上昇が第一優先事項です。一般的に、株価との連動性が高い指標はROEやROIC(投下資本利益率)で、投資家はこれらの指標を基準に資本効率がどのくらい上がるのかを知りたがる。ここに大きなギャップがあります。 上場企業の経営者やCEOなどから「当社は増収増益なのに、なぜ株価が上がらないのか」という相談をされることがよくあります。理由は簡単で、増収増益だとしても、資本効率が上がっていないと株価は上がらないからです。上場会社である以上、資本市場の視点、つまりコーポレート・ファイナンスのリテラシーをもつべきです。リテラシーがあって初めてアクティビストや投資家と本質的な対話ができるのだということを、経営者のみならず全役員が知っておくべきだと思います。