離党した比例選出議員を辞職させて良いのか? 品田裕・神戸大学大学院教授
視点3 小選挙区議員と比例代表選出議員を差別してよいのか
小選挙区選出議員は出処進退を自由に決められるのに、比例代表選出議員には行動の自由もない。これでは比例代表選出議員は二級市民ではないか。同じ議員にそんな区別は認められないのではないか。 反論はこうだ。小選挙区と比例代表は独立に選出するので、それぞれに託された有権者の意思は当然、異なり、両者を区別しても構わない。 この2つの意見については、選挙の際に有権者が投じる2つの票の違いをどう考えるかで立場が決まってくる。小選挙区であれ、比例代表であれ、2票とも同じ基準で衆議院議員を選んでいると考えれば前者になるし、異なる全く別の基準で選んでいると思えば後者になる。 私は二つを区別はしない方が良いと考える。比例代表はもとより、小選挙区でも、現代は政党で選ぶ人が多いからだ(とはいえ、小選挙区は候補者の人柄で選ぶという人もいるのだが)。 二つを区別しないという立場を突き詰めると、小選挙区選出議員と比例代表選出議員は同じに扱わなければならないから、離党行動に対する制限も同じ程度にしなければならない。小選挙区選出であっても、離党には一定の制限を設けるべきという立場になる。こうなると小選挙区選出議員に対する党執行部の影響力は大きくなる。公認権の行使に加えて、離党制限もできるからだ。これを聞いたら、「離党した議員を直ちに失職させろ」という声は小さくなるかもしれない。慎重派が295人は増えそうだ。
議員は何の代表なのか
離党した議員を失職させるべきか。この問いの背景には、議員が何を代表しているのか、という問題があり、「国民の代表」と「投票者の選択の尊重」という二つの考え方がある。両者を互いに対立したものとする見方は、実は昔からある、いわば古典的な議論である。イギリスの政治思想家、バーグとかバジョットという名前を聞いたことがあるという人も多いだろう。バーグは、フランス革命後のイギリスで「人民主権」を拡げようとする勢力に対し、代表たる議員は有権者の意思から自由に意志決定するのが良いと説いた。遷ろいやすい人々の意見なんかより、政治を安定的に運営するにはリーダーに任せるのが良いと考えたからだ。この考えは、民主主義が普及し、投票権が拡大して行く過程で、有権者の意思こそ最も尊重しなければならず、議員は投票者の選択を尊重しなくてはならないという立場と対立し続けた。代表をめぐるこの対立が様相を変え、今も続いているのである。 民主主義は空気みたいなものだから意識して護る必要があるが、質の悪い議員を野放しにしておけば民主主義そのものへの信頼が損なわれる。他方、極めて悪質な議員は稀であって、そこに焦点を当て続けるのは、却って良くない。悪質なごく例外的な議員には制裁を与え、全体として民主主義を維持したい。 しかし、どこからが罰すべき悪質事例なのか、実際に線引きすることは難しい。一つの答えが、国会議員の失職を、刑事罰が確定して公民権が停止になった時(そんなことは滅多にない)とする現行法制の立場だ。国民の代表である議員を辞めさせられるのは、国民全体が合意できる程に、明らかに「アウト」な時だけに限定する、極めて抑制的なものだ。同時に、これは、現代民主主義の一つの問題に答えを出している。政党ガバナンスの強化よりは、政党から自立した有権者の選択を重視しようと考えるのだ。もっとも、質の悪い議員に対して甘すぎる、と騒動になることも多いのだが……。 ------------------ 品田裕(しなだゆたか) 1963年、京都市生まれ。1987年、京都大学法学部卒業。2000年、 神戸大学大学院法学研究科教授。専攻は選挙研究。「2005年総選挙を説明する-政党支持類型から見た小泉選挙戦略」(『レヴァイアサン』39号)、「衆議院選挙区の都道府県間の配分について-最高裁の違憲判決を受けて代替案を考える-」(政策科学19巻3号)など。