新日本酒紀行「三冠」
● 廃業危機から復活!角打ち設置の売店で日本酒を楽しく紹介 三冠酒造7代目の前畠眞澄さんは、「三冠どころか、廃業寸前で」と苦労を語る。長年、酒を大手メーカーに納めていたが、ある時、ズバッと契約を切られ、父が2000年に酒造りを中断。当時の眞澄さんは酒造りに興味がなく、デザイン関係に進んだ。食いしん坊であちこちの店を食べ歩く中、料理と合わせると日本酒はおいしいと気付く。10年に父が廃業を決意すると、兼業で酒造りに挑んだ。 【写真】「酒造りのこだわり」はこちら! だが、蔵の経営状態は想像以上の火の車で、製造機器や設備がなく「米袋を60袋担いで運び、冷水で米を手洗いし、酒造りの全工程が地獄でした」(眞澄さん)。できた酒は搾りたてこそおいしいものの、後工程で味が劣化。知り合いの飲食店に「買ってやるけど、くそまずい」と言われる始末。独りで背負わず、製造を任せる体制づくりを決意。三顧の礼で杜氏を迎え、補助金も活用し、設備を少しずつそろえて軌道に乗せた。 暗くて古く、草木が生い茂っていた蔵は近所の子供たちから「お化け屋敷」と呼ばれていたが、19年に精米蔵を角打ち併設の売店に大改装。酒造りの工程をパネルで展示し、小さなおつまみ付きで3種飲み比べを提供し、夏季限定で仕込み水の氷の吟醸酒粕かき氷を出すと、SNSでバズり一躍地元の名所に。 原料米は岡山県産の雄町と朝日を用い地酒に特化。酵母無添加の生酛造りの酒にも挑む。「食事を主役にする酒!マジメな辛口を目指します」と言う眞澄さんの挑戦は始まったばかりだ。
(酒食ジャーナリスト 山本洋子) ※週刊ダイヤモンド2024年11月30日号より転載
山本洋子