酸性食品とアルカリ性食品/歯学博士照山裕子
「100歳まで食べられる歯と口の話」<29> 口の中が酸性に傾くと脱灰(歯のミネラル成分が溶けだす現象)が生じ、これが初期虫歯につながるというロジックは、ある程度定着しているようです。このため、「アルカリ性の食品を摂れば虫歯にならないのでは」という誤解も根強く残っています。 ひと昔前に、「酸性食品は体に悪く、アルカリ性食品は体に良い」という健康ブームがありました。この分類は、食品そのもののpHを調べて酸性かアルカリ性かを判別するわけではありません。食品を燃やして発生した灰を水に溶かし、この水溶液のpHを測定することで区分します。酸性を示すミネラル(塩素、硫黄、リン等)が溶出していれば酸性食品、アルカリ性のミネラル(ナトリウム、カルシウム、マグネシウム等)ならアルカリ性食品です。 酸性食品の代表例は肉や魚、穀物や卵といった比較的高カロリーなものが多く、アルカリ性食品は野菜や海藻類、きのこや果物といったヘルシーなイメージの食品が多いのが特徴です。 人間の血液はそもそも、恒常性を保つ機能によって弱アルカリ性に保たれています。このため、いくらアルカリ性食品を積極的に摂ったからといって血液がアルカリ性に傾くわけではなく、当然口の中も同様で、唾液の働きによってすぐに中和されてしまいます。 現在の栄養学ではこの分類は使われなくなったものの、いまだに通販サイト等でこうした表記を見かけることがあるため混乱しがちなのも無理はありません。年齢を重ねると生じるフレイルやサルコペニアの予防には、良質なタンパク質を含むバランスの良い食事が必須条件です。健康に良いイメージにもかかわらず、頻繁な摂取が酸蝕症リスクをはらむ「お酢」も実はアルカリ性食品に分類されます。寿命が飛躍的に延びた現代では知識のアップデートが必要ですし、歯を長持ちさせるためにも大切なことといえます。