京都・祇園祭50万人来場「バスに乗れない」「家の前にゴミ」市民も困惑 深刻化する“オーバーツーリズム”京都市の対策とは
観光特急バスの登場で混雑は解消された?
地元民の声を聞いていると、やはり観光客の多さとそれによる交通への影響に悩まされている人が多いようだ。こうした現状については京都市産業観光局観光MICE推進室も、「一部のエリアや時間帯などに観光客が集中することにより、市バスの混雑、観光客のマナー問題、特定観光地への集中、道路の混雑などの観光課題が生じているものと考えています」と認識している。 「市では対策として、観光地の時期・時間・場所の3つの分散化、観光モラルの普及・促進、マナー啓発、手ぶら観光の推進などにしっかりと取り組むとともに、“旅マエ”、“旅ナカ”といった各段階に応じた情報発信を行っています」(京都市産業観光局観光MICE推進室担当者) さらに観光客の京都駅一極集中の緩和に向けて、「JRと私鉄・地下鉄の各主要乗換駅、地下鉄各駅などのサブゲートを活用した効率的なルートの利用を促し、移動経路の分散化に取り組んでいる」という。 今年6月からは、観光客向けに「観光特急バス」の運行も開始された。 バスの混雑については以前より「地元民と観光客で分けてはどうか」といった声が上がっていた。しかし乗合バス(路線バス)である市バスは、道路運送法により乗客を限定することができない。そこで、1乗車500円もしくは1日乗車券の利用で乗車できる観光特急バスが登場した。定期券や敬老乗車証は利用できないため、通学・通勤・生活利用との住み分けができるとの考えだ。 実際に混雑解消への“手ごたえ”は感じているのだろうか。 「観光特急バスについては、これまでに1日当たり平均して約2200人のお客さま(※1便50人とすると44便相当)にご利用いただいており、市民の方が利用される市バス系統から住み分けできていると考えております。停車するバス停も限定されるため、速達性についても評価されています」(同上)
夏休みシーズンに突入。観光分散は実現可能か?
市民からは「大型のスーツケースをバスに持ち込まないでほしい」との要望もあるが……。 「大型スーツケースの持ち込みを規制するには、お客さま一人ひとりの手荷物を確認する必要があり、ワンマン運転で運行している市バスでは現実的ではありません。また、京都市民の方が旅行や出張などで使用されるキャリーバックや、学生が部活動などで使用する大きな手荷物も規制することになり、市民の利便性が低下すると考えられます。規制、あるいは手荷物への課金は課題が大きいのが現状です」(京都市産業観光局観光MICE推進室担当者) 京都市では今後、定番の観光ルートに人が集中しがちな嵯峨嵐山エリアにおいて、デジタルマップの作製などにより、比較的混雑していないエリアへの回遊を促す取り組みを予定しているとのこと。 「市では、市民生活と調和した“持続可能な観光”の実現に向けて取り組んでおり、観光課題の解消と同時に、市民の方に観光がもたらす効果を実感していただくことが重要であると考えております。観光がもたらす効果の“見える化”などを通じて、市民の共感の輪の拡大などにも努めていきます」(同上) 夏休みシーズンに入り、しばらくは混雑が継続すると思われる京都市。市の対策で、市民の生活利便性は守られるのか。京都市民のひとりとして、今後の市の新たな対策に期待したい。 倉本菜生(くらもとなお) 1991年福岡県生まれ。京都府在住。龍谷大学大学院にて修士号(文学)を取得。専門は日本法制史。フリーライターとして社会問題を追いながら、近代日本の精神医学や監獄に関する法制度について研究を続けている。主な執筆媒体は『日刊SPA!』『現代ビジネス』など。精神疾患や虐待、不登校、孤独死などの問題に関心が高い。
倉本菜生