「暴風軍団」のロシア派遣でルビコン川を渡る北朝鮮…金正恩とプーチンの「軍事協力」に穏やかならぬ習近平
<中国の習近平国家主席から北朝鮮の金正恩に送られた書簡には「友好的な隣国」への言及がなく、両首脳の親交を記念する「足跡銅板」も取り外されたという>
[ロンドン発]中国の習近平国家主席は10月16日、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記の中国建国75周年の祝辞に対して15日遅れで書簡を返した。「友好的な隣国」という伝統的言及はなく、緊密化する北朝鮮とロシアの軍事協力に対する習主席の不快感の現れとみられている。 【動画】「ここまで落ちぶれたのか」...プーチンが見せた、金正恩に「すり寄る」弱々しい姿に専門家も驚きの声 「中国と朝鮮民主主義人民共和国は同じ山と川で結ばれ、両国の伝統的な友好関係は時の経過とともにますます強くなっている。私は同志総書記とともに、地域と世界の平和、安定、発展、繁栄を守るため、より大きな貢献をするつもりだ」との外交辞令を習主席は金正恩に伝えた。 金正恩が2018年に中国・大連を訪問した際、習主席と散歩して親交を深めたことを記念する「足跡銅板」も今年6月、取り外されたことが明らかになっている。韓国紙・中央日報が入手した写真によると、銅版があった場所は黒いアスファルトコンクリートで覆われていた。 ■中国と北朝鮮の「唇と歯の関係」に秋風が吹く 「血の友誼(ゆうぎ)」「唇と歯の関係」と言われる中朝関係に秋風が吹く。ウクライナ戦争で北朝鮮とロシアの軍事協力が一気に緊密化したのが原因だ。金正恩が「暴風軍団」と呼ばれる特殊部隊など1万2000人以上をロシアに派遣したことで習主席の苛立ちはピークに達する。 英紙フィナンシャル・タイムズ(10月25日付)は「金正恩がロシアのウクライナ戦争を支援するために軍隊を派遣する以前から、北朝鮮の主要な支援国である中国が、金正恩がモスクワとの関係を深めていることに不満を抱いている兆候があった」と分析している。 習主席はソ連・北朝鮮・中国の「北の三角形」が韓国・日本・米国の「南の三角形」と対峙した冷戦初期の再来を何としても避けたいと考えている。習主席はロシアのウラジーミル・プーチン大統領と金正恩の冒険主義には絶対に巻き込まれたくないのだろう。 ■ロシアへの軍派遣でルビコンを渡る金正恩 米シンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)のビクター・チャ地政学・外交政策部長は「ロシアに軍隊を派遣し、ルビコンを渡る北朝鮮」と題したポッドキャスト(10月23日付)で「金正恩はプーチンが不当な戦争に勝利するよう全力で支援している」との見方を示している。 「122ミリメートル、152ミリメートルの砲弾800万発と弾道ミサイル数十発を送ることに加え、北朝鮮は今年6月に署名したロシアとの相互防衛条項を含む包括的な戦略的パートナーシップ協定の精神に基づく同盟コミットメントを提供している」(チャ氏) 北朝鮮が派遣する部隊がエンジニアか、戦闘部隊かはまだ不明だ。ウクライナ戦争はプーチンにとって存立危機事態であるだけでなく、金正恩にとっても同様だ。国際社会から孤立する金正恩は食糧、燃料、その他の物資を必要としており、中国よりもロシアを頼りにしているという。 ■東アジアの地政学を複雑化させることを恐れる中国 CSISの衛星画像の分析によれば、北朝鮮とロシア間の鉄道輸送はかつてないほど活発だ。「ロシアの戦争を支援することで北朝鮮の軍部は短距離弾道ミサイルや軍需品の有効性について貴重な経験が得られる。120万人の軍隊も朝鮮戦争以来の戦闘経験を積むことができる」(チャ氏) 金正恩は大陸間弾道ミサイルや原子力潜水艦の戦力構築を目指す。北朝鮮の核兵器開発に反対してきたプーチンだが、ウクライナ戦争をきっかけにした軍事協力で「国防・技術分野における協力がさらに発展する可能性を排除しない」との方針に転換している。 北京は、中国の影響力を低下させる北朝鮮の動きが東アジア地域における米国とその同盟国のより強力な対応を誘発し、ひいては中国の核心的利益である台湾と南シナ海の地政学を複雑化することを恐れている。さらに米国が地域の集団保障体制を構築することにも不安を抱いている。 習主席は深刻なジレンマを抱えている。米国の影響力は排除したい。ロシアのエネルギーは喉から手が出るぐらいほしい。数少ない「友人」のプーチンがウクライナ戦争で全面敗北するのは何が何でも避けたい。しかし、プーチンと金正恩の暴走だけは御免被りたいのだ。 最後の1点で西側と中国の利害は一致しているのだが......。