女子バレー、久光を3冠に導いた中田久美監督の意識革命
疑問に思ったことはすぐに尋ねる。黒鷲旗の準々決勝後も、こんなことがあった。 開幕からレギュラーに抜擢され、サウスポーを生かし、高い攻撃力を発揮しリーグの最優秀選手賞を獲得するほどの成長を遂げた3年目の長岡望悠。中田監督も「苦しみながらも、最後までよく頑張った。十分な合格点」とその活躍を高く評価した。今シーズン最後の大会となる黒鷲旗も「絶対に勝って終わりたい」と高い士気を持って臨んだのだが、準々決勝のパイオニア戦ではサーブやスパイクのミスが多く、安易なフェイントで逃げるなど、攻撃面でも消極的なプレーが目立った。その姿勢が中田には納得がいかず、3-0で勝利はしたものの、試合を終えた直後、中田は長岡を呼びとめた。 「どうしたの? コンディションが悪いの?」 1本目のサーブがアウトになり、2本目のサーブもまたアウト。これまでと同じ感覚で打てているにも関わらず、入らない。自身の調子が悪いわけでもないのに、どうして入らないんだろう。「なぜ?」と問われてもその理由がわからず、考え過ぎてしまった結果、迷いや不安ばかりが増し、消極的なプレーにつながっていた。 もともと素直で真面目な性格の長岡は、1つのことが気になると考え過ぎる節がある。リーグ中にも何度もあった負のスパイラルに陥りかけたエースに、中田は喝を入れた。 「わからないことを、いつまでも考えてどうするの。サーブが入らないからどうしよう、じゃなくて、そこでどうするか、が大事なんじゃないの? サーブが入らなくてもいいから、まずは思い切ってプレーしなさい。いつまでも下を向いているような選手がコートにいると、周りは納得しないよ」 そのひと言が、長岡を覚醒させた。 翌日の準決勝は、Vリーグ決勝の再現となった東レとの対戦。1-1で迎えた第3セット、10-9の場面で長岡にサーブ順が巡って来た。 「『またミスをしたらどうしよう』という気持ちが先走っていました。久美さんに『思い切りやればいい』と言われて、ふっと力が抜けました」 前日とは違う、しなやかなスイングから放たれたサーブがサービスエースとなり、拮抗していた試合が一気に動いた。長岡のサーブがチームに流れを呼び込み、連続得点で18-9と東レを突き放し、勝利を引き寄せる原動力となった。