ノンアル飲料、ポスト・イット、キットカット…「予期せぬ成功」をイノベーションにつなげる秘策とは?
■ ノンアルコールビールはイノベーションのお手本 では、どうすれば「予期せぬ成功」を見つけられるのだろうか。その方法はどんなものなのだろうか。現代の古典『マネジメント──課題、責任、実践』(1974年、ダイヤモンド社)の一節に耳を傾けてみよう。 「重要なことは、期待するものを検討し書きとめておくことである。イノベーションが新製品、新プロセス、新事業を生み出したとき、それら期待したものと比較する。結果が期待を下回っているのであれば、人材と資金をそれ以上注ぎ込むべきではない。『手を引くか。どのように手を引くか』を考えなければならない」 ドラッカーはこの短い引用文の中で3つのことを語っている。各要素に分解してみよう。 (1) 期待するものを検討し、書くとめておくこと (2) 新製品等を開発して市場に投入してから、(1)の期待と照合する (3) 照合結果が(1)に達していないなら、それ以上資源を投入するのをやめる 彼はこのシンプルな方法を「フィードバック」と呼び、至るところで活用している。これは定期的に自分の期待と現実の「答え合わせ」をして、「ずれ」を見つけ出す方法である。すでに「廃棄」の大切さをお伝えしたが(第1回参照)、彼が真っ先に行うべきとするのは、「成果を生まないこと」から手を引くことである。 では、期待通りに行ったものはどうするか。どんどん資源を投入する。そんな中で全く思いもしなかった顧客層にヒットしたらどうするか。まさにそれこそが「ずれ」を示してくれている。そのときは自分の方をそのずれに合わせて修正する。そこには潜在的な需要があるはずだからだ。これこそが「予期せぬ成功」の兆候に他ならない。 例えば、ある酒造メーカーが、ビールやウィスキーなどを開発し、さまざまな階層をターゲットにしてきたとしよう。その際、「お酒を飲めない人向けの酒」という意外なニーズに気付いた少数派がいた。背景にあるのは、お酒に対する消費者の意識や社会的規範、行動パターンの変化である。 おそらく、その時点で酒造メーカー内では、「酒を作る会社が、どうして酒を飲まない人を相手にするのか」と激しい議論があったはずである。それは会社の存在意義を巡る激論だったに違いない。 しかし、アルコールを含まないビールやチューハイには確かなニーズがあった。お酒を常飲する人にも、ノンアルコール飲料を休肝日に飲む習慣が生まれていた。それは明らかに当初の予期に反していたはずだ。 そもそもアルコールを含まないビールとは何なのだ。それはまるで、ドーナツの穴だけを取り出して売るような芸当ではないか。ノンアルコールビールという商品名自体が明らかな語義矛盾であるにもかかわらず、今や誰もそれを疑わなくなっている。 私はかねがね思う。ノンアルコールビールほど「予期せぬ成功」やイノベーションの最高のお手本はない、と。私自身はお酒を飲まないけれども、ノンアルコールビールは割と好みなのだ。