「視線恐怖症」による3年間のひきこもり生活からプロボクサーに「今も実戦以外では人が視線に入るとドキドキしてしまって…」30キロ減量で衝撃のビフォーアフターも
「ひきこもり時代から30キロも痩せたんです(笑)」
──家族やジムの皆さんなど、近しい人のご理解はあったのでしょうか? まず家族については、私の病気を理解して、また心配もしてくれています。 突然ひきこもりとなってしまった息子に対しては、さまざまな感情があったかもしれませんが、急かすようなことを一切言わず、長い間寄り添ってくれました。心から感謝しています。 また、中学時代からボクシングの試合をテレビで見るのが大好きで、ボクサーをとても尊敬していました。当時はサンドバッグを家に置いて殴るだけの、完全な独学でしたが。 そのときのボクシングへの関心が、ひきこもり生活から抜け出すきっかけになりました。ボクシングを始めて、ひきこもり時代から30キロも痩せたんです(笑)。 私を快く受け入れてくれたジムの皆さんにも恩返しがしたいです。 ──30キロ痩せるというのはすごいですね。率直に、キツくなかったですか? かなりキツかったですよ。やはり最初はランニングもままならないし、ボクシングの1ラウンド(3分間)動くのさえ辛かったですから。 現在でも減量はたいへんですが、ひきこもりのときはなんの知識もなく、「とにかく痩せなければ」という気持ちだけが先行していました。 高強度の運動とインターバルを繰り返すHIITトレーニングを取り入れたり、超糖質制限の食事に挑戦するケトジェニックダイエットに打ち込んだりしました。 いまだにそうですが、食べたいものをたくさん食べられないのは精神的に堪えますよね。ただ、なりたい自分になるためなので、頑張れました。 ──日々のトレーニングや減量など、辛い場面も多いと思いますが、小川選手がボクシングに没頭するモチベーションはなんでしょうか? やはり周囲の人たちを喜ばせたいという思いが根底にあると思います。 たとえば試合後、勝ち負けにかかわらずリングから降りて挨拶にうかがいます。このとき、拍手をしながら「いい試合だった」「(勝てば)おめでとう!」と言っていただけることが、私の原動力です。 試合後、家族やジムの仲間と帰るとき、本当にうれしそうにしてくれるので、「勝ってこういう風景をもっとこれからも見たいな」と思うんです。 「次も勝ちたい」と思えることが、きつい練習にも耐えられる理由だと思います。 ──一見しただけでは病気とわからない、あるいは小川選手と同様に明確に原因がわからない病気と戦っている人がたくさんいると思います。そうした人たちに向けて言葉をお願いします。 たとえ死に至らない類の病気であっても、病魔に冒された人はその辛さと向き合わなければなりません。 かつて私も、日々辛いと思いながらひきこもり生活を送ってきました。ボクシングがなかったら、私の毎日は今も苦しいだけだったと思います。 暗く悲しく長い道のりのなかで、「好きだ」といえるものが1つでもあれば、いくらかの救いにはなるのではないかと思います。 私にとってのボクシングがそうした光明だったように、多くの人にとってそれに値するものが見つかることを心から願っています。 また私の試合を見てくれる人たちに対しては、勇気を少しでも感じてもらえる闘いができればと思っています。ボクシングを通して、私は自分の人生において満足できる形を残したいと考えています。 夢は、日本チャンピオンです。 取材・文/黒島暁生
黒島暁生