江口のりこさん(44歳) 2万円を握りしめて東京へ。女優を志したのは中学生から…その半生とは|STORY
日常を感じられる戯曲に惹かれて
映画って面白そうだな、どうしたら出られるんだろう? と考え、“劇団”ってところに入るのが近道なのかな、と。図書館で、いろんな人の戯曲を読みました。ただ、どれも日常とかけ離れた表現にオーバーさを感じて、人前でやるのは恥ずかしいなと思っていた中で唯一、岩松了さんの書いた戯曲はテンションが日常のまま。コレだったら恥ずかしくなくできるかな? と。 岩松さんが過去に所属していたのが劇団東京乾電池で、その頃日本映画でよくベンガルさんや柄本明さんの姿を見ていたので、ここに入れば何かいいことがあるのかな? と思いました。バイトしてせっかく貯めたお金をお兄ちゃんが持っていってしまうこともあったりして、(あ、もういますぐ東京に出た方がいいや)って。東京乾電池の研究生に応募し受かったのを機に、なけなしの2万円を握りしめて東京へ……18歳の終わり頃でしたね。
芝居は私と社会を繋げる、かけがえのないもの
住み込みの新聞配達をしながら1年が過ぎ、劇団では研究生から劇団員になりました。新聞専売所から奨学金をもらい、初めて借りたアパートは3畳! お風呂もないし、正直(せまっ)って思ったけど、住めば慣れてくるもの。それなりに落ち着くというか……、どんどん家が広くなったとしても、割と隅っこが好きなんです(笑)。 長く続いた仕事も、他にやりたいって思うことも特になく、ずーっと続けているのは芝居だけ。芝居は私の生活と密接に結びついているんです。それをひしひし感じたのは、新型コロナのステイホーム期。芝居の仕事をすることで、いろんな人と出会って、関わって……そこが自分の社会のすべてのような。仕事に行くことがなくなると誰にも会わないから、本当に社会生活を送れてないんだって気づきました。私と社会を繋げてくれるものなんですよ。 それに、芝居という仕事に面白さも感じます。なんといっても仕事場が現場現場によって変わっていくのが面白い。この間は八丈島でロケをしたのですが、思ってもみないところに連れて行かれるって楽しいです。現場のチームも、いつかは終わるってわかっているから、それもちょっと寂しいけれど、いいことのようにも思えるし、また新しい場所で、新しいチームでって、転々とするのが私は結構好きみたいです。