「どこに開くかわからない」 トルコ穀倉地帯で急増する陥没穴
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【10月20日 AFP】トルコ・コンヤ(Konya)県で農業を営むファティ・シクさん(45)は、地面に突然大きな穴が開いてのみ込まれてしまう恐れがあると知りつつも、トラクターでトウモロコシ畑を耕し続ける。 農業が盛んなコンヤ県はトルコの「パンかご」とも呼ばれる。地元カラプナル(Karapinar)出身のシクさんの土地には巨大な陥没穴がすでに二つある。 シクさんはAFPに「どこに穴が開くかわからない。そのことばかり考えている。穴に落ちて死んでしまうのではないかと不安だ」と話す。 「でも働かなければ家族が飢えてしまう」 コンヤ県のあるアナトリア(Anatolia)半島の中部一帯には、何世紀も前から陥没穴が存在しているが、近年、その数が急増している。専門家は、度重なる干ばつとそれに伴い農業潅水で地下水を過剰に利用していることがその背景にあると指摘する。 陥没穴は深く、中にはその深さが50メートルに及ぶものもある。遠くからは見えないが、コンヤ平原に広がるトウモロコシやビート、麦の広大な畑の中ではこうした陥没穴が突然目の前にその姿を現す。 コンヤ工科大学(Konya Technical University)のアリフ・デリカン(Arif Delikan)准教授は「陥没穴ができる主な原因の一つは気候変動だ」と言う。 デリカン氏は、コンヤ県で確認した陥没穴640個のうち、600個以上がカラプナルにあると指摘し、「過去1年で約20個の穴がカラプナル内にできた」と説明した。 また、同氏と政府の災害緊急事態対策庁 (AFAD)は、2700地点以上で地表の変形と非地震性の亀裂を確認している。これらの場所では、陥没穴が発生するリスクがあるため、調査の必要がある。 陥没穴は、水に侵食された地盤に空洞が生じ、地表が崩れることで出現する。自然に形成されることもあれば、人的活動が直接・間接的に作用してできることもある。徐々に現れることもあれば、ほぼ前兆なく突然開くこともある。 ■自宅のすぐそばにできた穴 農家のアデム・エキメキチさん(57)は、昨年、自分の畑に陥没穴ができ、数本のアンズとクワの木がのみ込まれたと話す。 「突然足が滑ったことがあった。下を見たら地面に亀裂があった」 「(その後、)戻った時には土が崩れて木が穴の中に落ちていた。本当に恐ろしかった」 エキメキチさんの10ヘクタールの農地には幅50メートルの陥没穴が二つあり、うち一つは自宅からわずか10メートルのところに開いた。 最初に亀裂に気づいたのは2018年。エキメキチさんは自治体当局に報告し、亀裂を石で埋めてもらった。しかしその2年後に地面は崩れ、深さ20メートルの穴が開いた。 エキメキチさんは、その夜は恐ろしくてあまり眠れなかったと振り返る。しかし、他に行くところがないため、穴との共存を決めたのだという。 この地域ではこれまで死傷者は出ていない。だが、そのリスクについてはすべての住民が理解している。 羊を放牧していたアフガニスタン人のオメルさん(27)は、群れが陥没穴にのみ込まれてしまうのではと戦々恐々だとAFPに話した。 「考えたくはないが、1頭が落ちたら他の羊も続いてしまうと思う」 コンヤの降雨量は昨冬、平年よりも4割ほど少なかった。トルコ国内の小麦36%、ビーツ35%を生産するコンヤの農家にとっては厳しい状況が続くこととなった。 こうした状況に対処するため違法に井戸を掘る農家もいる。そうすると、地盤はさらに脆(もろ)くなる。 しかし専門家によると、渇望されている雨でかえって状況が悪化することも考えられるという。水が地盤に圧力をかけてしまい、崩壊を加速させてしまう恐れがあるためだ。 ■陥没穴を観光名所に 一方、陥没穴をチャンスととらえた人もいる。 ジェム・キナイさん(66)は6月、トルコで最も古く、最も有名な陥没穴のそばにある約800年前に建設されたセルジューク(Seljuk)朝の隊商宿跡に、13室の高級ホテルを開業した。 陥没穴は半分ほど水で満たされており、湖のようにも見える。 キナイさんは「われわれは陥没穴の恐怖をポジティブなものに変える必要がある」と言う。 韓国から来たという観光客のキムさんは、陥没穴に魅了された様子で「このようなすごいものを見るのは初めてだ」と感想を述べた。 他方で地元住民のギュミュシュ・ウズンさんは、約60年前にはこの陥没穴の水を羊にやり、服を洗うのに使っていたと祖父から聞いたことがあるとAFPに話した。 当時の水位はもっと高かったみたいだが「今はどんどん下がっている」と説明した。 映像は6月撮影。(c)AFPBB News