抜群なホットハッチの「キング」 トヨタGRヤリス 8速AT版へ英国試乗 Mモードで表出する魅力
Mモードで表出する愛すべき特性
前期型のオーナーなら、8速ATのGRヤリスは不思議なほど大人しく感じられるだろう。しかし、去勢されたわけではない。 本来のエネルギッシュさは、シフトレバーを横へ倒し、M(マニュアル)へ入れると表出する。自らギアを選べるようになり、愛すべき特性を堪能できる。パワーアップしつつ、前期型に並ぶ喜びへ浸れる。 英国仕様では、サーキットパッケージの設定は消滅。後期型では、トルセンLSDとハードなサスペンションが標準装備になった。 スプリングレートは、前が46N/mmで、後ろが40N/mm。改良前のサーキットパッケージは、前後とも36N/mmだった。アンチロールバーも、前側が引き締められている。 ドライブモードの各名称も改められ、四輪駆動システムのトルク分配も変更された。ノーマル・モードは、60:40で前寄り。グラベル・モードは53:47、トラック(サーキット)・モードはリアへ伝わる割合いが40~70で可変する。 スプリングレートの上昇率を考えると、乗り心地は想像以上に優しい。確かに硬い側にあるが、吸収性はお見事。荒れた路面を通過しても、ダイレクトな衝撃へ襲われたり、落ち着きを失うことはない。 素早く入力を処理し、即座に次の入力へ備える。スピードが高まるほど、気持ち良く運転できるクルマの典型だ。
ホットハッチのキングに変わりなし
前期型より機敏で楽しくなった、とまではいえないだろう。タイトな足まわりのおかげで、コーナリングはフラットになり、旋回能力は高まったといえる。しかし旋回初期やブレーキング時の回頭性は、やや穏やかになったように感じた。 リアタイヤへ分配されるトルク割合いが増え、サーキットのような環境では、コーナー出口での鋭い脱出を叶えている。反面、速度域が低い公道では、フロントノーズが引っ張っていく印象も増した様子。前期と直接乗り比べれば、という違いだが。 バックライトを溶かすほど攻めなければ、前期型でも公道では同等の喜びを味わえるように思う。既存オーナーが、そこまで意識する必要はなさそうだ。 だとしても、後期型のGRヤリスがシリアスさを増し、一層能力を高めたことは間違いない。いうまでもなく、抜群に面白い。満点の評価を与えるべき、エンターテインメント性を宿している。ホットハッチのキングという立ち位置に、変わりはない。 さて、英国価格はMT仕様で4万4250ポンド(約903万円)から。ATでは4万5750ポンド(約933万円)へ上昇する。期間限定の特別仕様は、6万ポンド(約1224万円)に達するという。 供給数が限られ、開発・製造コストがかさむことは理解できる。前期型はお買い得だったと実感するが、この数字を聞いても、GRヤリスが好きな気持は変わらない。トヨタは、地球上で最もエキサイティングな自動車メーカーの1社になったようだ。 ◯:この存在自体 優れた動的能力による驚異的な走り 適度なコンパクトさと魅力的な操縦性 △:薄まったお買い得感 AT任せの時のエンジン・フィーリング 勢いよく閉める必要があるテールゲート
トヨタGRヤリス・オートマティック(英国仕様)のスペック
英国価格:4万5750ポンド(約933万円) 全長:3995mm 全幅:1805mm 全高:1455mm 最高速度:230km/h 0-100km/h加速:5.2秒 燃費:10.5km/L CO2排出量:215g/km 車両重量:1300kg パワートレイン:直列3気筒1618cc ターボチャージャー 使用燃料:ガソリン 最高出力:280ps/6500rpm 最大トルク:39.7kg-m/3250rpm ギアボックス:8速オートマティック(四輪駆動)
マット・プライヤー(執筆) 中嶋健治(翻訳)