パリ協定離脱「トランプショック」で日本の自動車メーカーが割を食う?
国内では逆に「誰も守れないような」環境規制
これを見る限り、アメリカの態度は経済優先で、地球温暖化への取り組みに消極的に見えるが、実は米国内の自動車排ガス規制はむしろ極端なくらい厳しく、環境問題については国内スタンスと国際スタンスが支離滅裂なダブルスタンダードになっている。 問題になるのはアメリカが実施している「CAFE」と「ZEV」という2つの規制の存在だ。CAFE(Corporate Average Fuel Economy)は企業平均燃費と呼ばれ、自動車メーカーが販売する全モデルの平均燃費を定める基準だ。排ガス規制には大別して公害対策と温室効果ガス対策の2つがあるが、燃費規制は概ねCO2対策、つまり温室効果ガス対策である。現在の基準は1リッターあたり約15.1kmとなっているが、この計算方法が非常に厳しい。個別車種毎の燃費に販売台数を掛けて、メーカー全販売モデルの1台あたり平均燃費を求める方法だからだ。 例えば高性能スポーツカーで、ユーザーが全く燃費を気にしないクルマなら、メーカーもユーザーも合意の上で燃費を気にしない大出力エンジンを搭載できるだろう。しかし、これがCAFEでは大問題になってしまう。よく「スポーツモデルをエコカーにする必要があるのか?」という議論を目にするが、CAFEがある以上、アメリカで販売するクルマは例外なくエコにするしかない。唯一の可能性は販売台数を限定する方法だ。燃費の悪い大出力車は予め計算して平均値がCAFEをクリアできる台数だけ売り、ヒットしても一切追加生産しないという方法である。しかしこれはこれで問題がある。100台や200台の限定では儲けが出ない。逆に言えば儲かるほど作ればCAFEに引っかかる。以前トヨタ幹部もこぼしていたが、CAFEの本質的な厳しさは例外車種を認めないことである。それによってスポーツモデルが生まれにくい状況を作っているのである。
もう1つ、ZEVの方はどうかと言えば、こちらはゼロエミッションビークル(ZEV)を全販売台数の内、規定のパーセンテージ分を販売しなくてはならないという規制だ。かつてはカリフォルニア州だけのルールだったのだが、全米8州がこれに批准したことによって北米シェアの25%が規制下に入り、もはや無視することができなくなった。 問題は各州が認めるZEVの基準だ。かつてはハイブリッド車(HV)もZEVと認められていたが、新たに定められた2018年以降の規制ロードマップでは、電気自動車(EV)と燃料電池車(FCV)だけがZEVとして認められることになり、プラグイン・ハイブリッド車(PHV)については限定的にしかカウントされなくなってしまった。 以下の一覧は、2025年までのZEV規制のロードマップで、左端がメーカーの全販売台数における環境対策車のトータル比率、カッコ内は左がZEV(電気自動車と燃料電池車)、右が準ZEVのプラグインハイブリッドとなる。 2018年 4.5%(2.0%・2.5%) 2019年 7.0%(4.0%・3.0%) 2020年 9.5%(6.0%・3.5%) 2021年 12.0%(8.0%・4.0%) 2022年 14.5%(10.0%・4.5%) 2023年 17.0%(12.0%・5.0%) 2024年 19.5%(14.0%・5.5%) 2025年 22.0%(16.0%・6.0%) 例えば2018年にあるメーカーがプラグイン・ハイブリッドを、全販売台数の5%売ることに成功しても、カウントは2.5%で足切りされ、目標の4.5%は未達とされてしまい、高額の罰金が科せられることになる。 もちろん環境対策は重要だ。無視していいとは思わないが、現実問題として2025年のZEV販売台数16.0%を達成しようとした時に、電力インフラそのものが電気自動車の需要を満たせるかどうかは甚だ疑問であり、全体としては「絵に描いた餅」である可能性が高い。 では燃料電池でという話になれば、それだけの台数の燃料電池車を生産できる自動車メーカーはどこにもないし、様々な技術が開発されているとは言うものの、2015年までの8年で実用的な水素燃料のインフラが構築できるとも考え難い。この規制は、クルマの面からもインフラの面からも相当なハードモードなのである。ZEV規制は中長期規制としてはそれなりに評価できるが、一方で短期規制としては誰も守れない理想主義ルールである。