パリ協定離脱「トランプショック」で日本の自動車メーカーが割を食う?
トランプ米大統領が表明した「パリ協定」からの離脱は、日本の自動車産業にも大きな影響を与えています。一見すると、このニュースは環境対策と格闘してきた自動車業界にとって悪くない話のようにも思えますが、実は米国内では、既に非常に厳しい環境規制が始まっています。日本メーカー含め自動車各社はその規制に対応するための戦略変更を余儀なくされていました。そこへ来ての国際的な温暖化対策ルールからの離脱表明。米国のダブルスタンダード状態に自動車各社は翻弄されているのです。モータージャーナリストの池田直渡氏の解説です。 【写真】米のエコカー規制強化で瀬戸際へ 豊田章男社長に聞くトヨタの環境戦略
米国がやっと参加した国際的なルール
6月1日、米国のトランプ大統領はパリ協定からの離脱を発表した。報道ではこれを単純に米国もしくはトランプの身勝手と捉えるに止まっているが、実は世界の自動車産業側から見ると、長期投資や企業戦略プランの前提となる重要な基礎条件の変更であり、大問題になる可能性が高い。特に日本にとってその影響は大きく、なりゆきによっては大きな実害を被りかねない。 ご存知の方も多いと思うが、「パリ協定」を定めた「パリ会議」とは通称で、正式には「第21回国連気候変動枠組み条約締約国会議」という長ったらしい名前であり、それ故に開催地の名前を取った「パリ会議」か、頭文字に会議の開催順のナンバリングを加え「COP21」の様に呼ばれる。国連を母体とする地球温暖化対策の国際的な枠組みだ。まずはこの中心となる「気候変動枠組み条約締約国会議(UNFCCC)」と米国の関係についてざっくりとおさらいする所から始めたい。 最初にこの会議が開かれたのは1995年のベルリン会議(COP1)。1997年に京都会議(COP3)で採択された「京都議定書」によって初めて具体的な各国の削減基準が策定された。歴代会議では京都議定書と同様に重要なルールが定められたことが3回あり、京都(COP3)、コペンハーゲン(COP15)、そしてパリ(COP21)となっている。 実質的な規制のスタートとなった京都議定書だが、この時、米国と中国は削減目標に対し「経済成長へのマイナス」を理由に批准を拒否した。全世界の温室効果ガスの40%を排出する排出ガス大国である米中2か国が批准しなければ、下位の国がどれだけ努力してもその効果は薄い。なので米中は「地球環境に重大な影響を与える」とか、「地球規模の環境対策である京都議定書を無意味にする」とか非難されてきた歴史がある。 問題を先送りにしてきたこの2大国が、ようやく観念してルールに批准したのが、2015年のパリ会議である。これに先立つ2009年のコペンハーゲン会議(COP15)でも大揉めに揉めた挙げ句、米国と中国が別枠の規制を特別に設けて批准するという歩み寄りを見せ、パリ会議でようやくこれに正式に批准して、温室効果ガス問題の世界的解決へ向けて歩き出したという事情があった。 つまり今回の米国のパリ協定からの離脱は、長年積み重ねてようやく世界全体での協調に至った地球温暖化対策の大幅な逆行を意味している。記述に正確を期せば、アメリカは枠組みそのものから離脱した訳ではなく、この枠組みで決めた重要なルール「パリ協定」の批准を取りやめると宣言したことになる。