iPhone 6 と iPhone 6 Plus は失敗だったのか? 尾田和実(ギズモード編集長)
しかし、こうした優れたパフォーマンスよりも、所有の満足感を与えてくれるのは、デザイン的な理由が大きい。発表当初、背面のテープを貼り付けたような白いラインに対して“Appleらしくない”という声が多数あがった。私はむしろ、洗練されたフォルムの中に、アクセントとして投入された白線から、たとえばヨーロッパの古着あたりでありそうな、無骨なワークテイストを感じた。これがなかったらつまらないデザインになっていたんじゃないかとさえ思う。 そして、発表から今日に至るまで、アップルのデザイン部門を率いるジョナサン・アイヴらが語るプレゼンテーション動画[※2]を繰り返し見て気づいたことがある。それは、“エレガント”という、これまでのガジェット好きにはあまり馴染みのない形容詞だ。プレゼン動画の中でアイヴは“今回は手にとった時になめらかで、素材同士の繋ぎ目を感じないフォルムを実現することに拘った”と強調している。たしかに、iPhone 6 / 6 Plusを手にすると、背面からフロントガラス、スイッチ部分も含めて、流れるような曲線で処理されていて、5sのような繋ぎ目を感じない。 iPhone 6 Plusに使い慣れた後に5sを見ると、街角のサンドイッチマンのように二枚の板を張り合わせたような味気なさを感じる。対して、iPhone 6 / 6 Plusはまるでテーラードスーツのような、優雅で立体的な曲線美を感じる。そう考えると背面の白いラインも、仕立てのいいスーツの裏地に施されたパイピングのごとく、丁寧な職人仕事のように思えてくるのだ。シームレスなフォルムとエンジニアリングを両立させる、とてもエレガントな意匠があの白いラインだったのではないかと思う。
さらに前述の動画で強調されているもうひとつのポイントが“ハードウェアとソフトウェアの融合”だ。確かにiPhone 6 / 6 Plusと、AppleのOSであるiOS 8は、同じベクトルで設計されていてブレがない。それはある種のヨーロッパ的“様式美”と言ってもいいかもしれない。スノッブに走るつもりはないが、それはとても“エレガント”なユーザーエクスペリエンスを生んでいる。 見た目だけでなく、手にした時、使った時、一貫した感覚を味わえる。それが、iPhone 6 Plusを所有する満足感。これは、例えばSamsungのように、いい意味でマーケットのニーズにいち早く対応して、あっという間に製品化できるメーカーとは別モノであって、スマートフォンにデザイン性を求めると、Apple以外の選択肢は存在しない、という現状を端的にあらわしている。 私がiPhone 6 Plusを使い倒した上で感じるのは、所有することの満足感だ、と言える。 日本のみならず、北米のテックメディア、テックライターの間でも、それほど話題にならなかったトピックに、「Appleのデザインチームに、プロダクトデザイン界の巨星マーク・ニューソンが参加」というものがある。彼が今回のiPhone 6 / 6 Plusに絡んでいるかは不明だが(対するApple Watchは非常に彼らしい色を感じる[※3])、ファンである私は敬意を表して、現在iPhone 6 Plusの純正カバーにレーザー・カッターで穴をあけて使用している[※4]。これが穴に指をかけることで、大きな画面の隅まで親指が届くようになって具合がいい。一部で有名な話だが、iPhone 5cの穴が開いた純正ケースは、マーク・ニューソンがデザインした作品なのではないかと推察されている。そこにインスパイアされて、私はこのカスタムのケースを思いついた。 さらに、ギズモード編集部で流行っているのが、純正ケースと本体の間にPasmoやSuica(と電磁波干渉防止シート)を挟んで「ニセApple Pay」として使うアイディア。サイズが大きくなった分、ケースと本体にカード1枚いれられる程度の隙間が確保できるようになった。Apple Payは現状日本では未対応なうえ、搭載されているNFCよりも日本で普及しているFeliCaの方が高速なので、なんちゃってではあるが、これも快適だ。 現状で、課題、不満に感じるところもあるかもしれないが、所有の満足感があるからこそ、いろいろと工夫して使うのが楽しい。そんな新型iPhone生活に、来年リリースされるApple Watchが加わり、今度はどんな“エレガント”な体験ができるのか。楽しみでならない。その上で、もう一度改めて、THE PAGE編集部からご提案頂いたこの記事のタイトル「iPhone 6とiPhone 6 plusは失敗だったのか?」を検証してみたい。 -------------------- 尾田和実(おだ かずみ) ギズモード・ジャパン編集長。株式会社メディアジーン COO(最高執行責任者)。(株)シンコー・ミュージック、MTV JAPANを経て現職。ギズモード、ライフハッカー、コタク、ルーミー、カフェグローブなどのメディアを運営。現在、COO職とギズモード・ジャパン編集長を兼任。 ※1 iPhone 6に搭載のA8チップは初代iPhoneに比べ50倍の速さ(ギズモード記事) ※2 iPhone 6とiPhone 6 Plusを紹介します(ムービー) ※3 Apple Watchに見るマーク・ニューソンの影...(ギズモード記事) ※4 iPhone 6 Plusのケースにレーザーカッターで穴を開けてみたら..(ギズモード記事)