日本に増える「ガチ中華」、中国人オーナーにエリートの飲食未経験者が多い納得の事情
陶然軒は十三の商店街にあり、昼は上海点心の「焼き小籠包」専門店、夜は立ち飲みの居酒屋として営業している。開店後の好調な滑り出しについて、羅さんは地域社会への感謝を口にする。 「開業直後から、商店街の皆さんが熱心に応援してくれました。ラーメン店や和菓子店の方々が、自分だけでなく、店のお客さんも連れて来てくれたのです。さらに、僕がほとんどSNSを使えないのに、お客さんが積極的にFacebookやInstagramに情報をアップして宣伝してくれた。そのおかげで来てくれたお客さんも多いです。 小籠包の具の肉は、商店街の精肉店で買っています。ある日、その精肉店さんのご主人がわざわざ来てくれました。とても嬉しかった。『店はこうしたほうがいい』とか、いろいろなアドバイスをしてくれるお客さんもたくさんいます。今、私たち家族は、地域社会の支え合い、助け合い精神に救われています。昔の中国に戻ったようでとても暖かい。日本には、そういう地域の絆がまだ残っているのですね。本当に素晴らしいと思います」と羅さんは感慨深げに語っていた。 ● 中国でいい仕事に就いていたのに、なぜ日本へ? この二つの家族には共通点がある。まず、移住の動機として子どもの教育環境や家族の将来を重視し、日本を選択している点だ。特に教育環境と治安の良さが決め手となっている。もう一つは、在留資格の「経営・管理」の中で、飲食店経営を選択している点だ。 ワンタン専門店の季さん夫婦は、もともと中国では夫が貿易会社、妻がテレビ局に勤めていた。以前の暮らしは決して悪くなかったのだ。共に一人っ子で、両親の反対を押し切って日本に移住する決断をした。 焼き小籠包専門店の羅さん夫婦も、夫は米国勤務経験を持つなど、共にビジネスエリートとして成功していた。コロナ期に、上海のロックダウンを機に将来への不安を感じ、子どもの教育を考えて、全てを捨てて日本へ渡ってきたのである。 どちらの家族も、中国では飲食店とはまったく違う仕事をしていた。それなのになぜ日本で、まったく経験のないビジネスに挑戦したのだろうか……?