世界経済の中期見通し④:経済政策とイノベーション
政府の産業政策が非効率資源配分を増幅
世界の中期成長率は、2008年のリーマンショック(グローバル金融危機)を境に下方に屈曲した(コラム「世界経済の中期見通し①:中国経済が世界経済の重石に」、2024年4月25日)、「世界経済の中期見通し②:労働が成長の制約に」、2024年5月10日、「世界経済の中期見通し③:リーマンショック後の設備投資抑制が影響」、2024年5月22日)。 それ以降、全要素生産性(TFP)の成長寄与度は一貫して低下を続けている。TFPは技術進歩や労働者の質の向上によって改善するが、それ以外にも、生産性が高い分野に資源配分が移ることによっても改善する。 市場メカニズムが働くことで、最適な資源配分が実現されることが期待されるところだが、実際にはそれは保証されない。そこで政府は経済政策、とりわけ産業政策を通じて最適な資源配分の実現を目指すのである。 ところが、政府の産業政策が非効率な資源配分を増幅してしまい、それが潜在成長率を低下させてしまうこともある。国際通貨基金(IMF)の分析によると、近年、企業間の資源配分がますます非効率的になり、その結果TFP上昇率が低下していることが、世界の成長率のトレンドを押し下げている。 政府が、生産性に関係なく一部の産業を優遇したり、逆に冷遇したりすることが、生産性の高い産業に資本と労働が配分されることを妨げ、潜在成長率を低下させている。IMFの分析は、こうした不適切な政策などを通じて資源配分が非効率となっていなければ、TFPの増加率は、現在よりも50%高かったはず、と結論付けている。 IMFは、以下の3つの条件を厳格に満たす場合、政府の産業政策は生産性向上と経済的厚生の向上をもたらすとしている。 第1は、支援対象となる分野が、二酸化炭素の排出量削減や他の分野への波及効果など、明確な社会的利益を生み出すこと。 第2は、外国企業を差別しないこと。 第3は、このような政策を管理、実施する能力が、政府に備わっていること。