世界経済の中期見通し④:経済政策とイノベーション
イノベーションと成長を後押しする3つの分野のポリシーミックス
IMFによれば、実際にはほとんどの産業政策は、高いコストの補助金や減税措置に強く依存している。対象を適切に絞り込まなければ、逆に生産性や社会厚生に悪影響を与えてしまう。例えば政府の補助金や減税の対象は、経済的に適切な分野ではなく、政治的に影響力を持つ分野となりがちだ。 また、外国企業に対する差別的な規制措置は、相手国の報復を招き、自国の生産性に悪影響を与える。ほとんどの国は、他国で生まれたイノベーションに依存しているためだ。 IMFは、イノベーションと成長を後押しする費用対効果に優れた政策は、第1に基礎研究の公的支援、第2に革新的なスタートアップ企業への研究開発補助、第3は企業間の応用イノベーションを促す税制インセンティブとしている。 これらを組み合わせ、GDPの0.5%の規模の財政措置を講じることによって、GDPを最大で2%押し上げることができる、とIMFは試算する。
経済ショックと経済政策効果
2008年のリーマンショックや2020年の新型コロナウイルス問題は、イノベーションと成長を後押しする適切な経済政策の妨げとなったと考えられる。 こうした大きな経済ショックが生じる際には、政府の経済政策は家計や企業を給付金などで支援することに一気に傾きやすい。他方でそれは財政をひっ迫させ、中長期の観点からイノベーションと成長を後押しする適切な経済政策を後退させてしまう。 さらに、経済ショックが生じるもとでは、各国で自国の産業を守る保護主義的な政策がとられやすい。その結果、市場の分断、貿易の委縮を通じたイノベーションの波及の弱まりも生じやすい。 これらが一因となり、2008年のリーマンショック後にTFPの成長寄与度は低下傾向を辿った。同様のことが新型コロナウイルス問題をきっかけに生じたことは想像に難くない。 新型コロナウイルス問題後には、TFPの成長寄与度が一段と縮小し、潜在成長率はさらに低下している可能性を考えておく必要があるだろう。 (参考資料) 国際通貨基金(IMF)、「世界経済見通し(2024年4月)」、「財政見通し(2024年4月)」 木内登英(野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト) --- この記事は、NRIウェブサイトの【木内登英のGlobal Economy & Policy Insight】(https://www.nri.com/jp/knowledge/blog)に掲載されたものです。
木内 登英