死刑確定事件の真相に迫る衝撃のドキュメンタリー映画『マミー』公開!! 26年目の「和歌山毒物カレー事件」を追ったひとりの監督の執念
日本中から"毒婦"と呼ばれ、死刑が確定しながらも無実を訴え続ける母と、塀の外で判決に疑問を投げかけ続けるその息子。忘れられようとしていた事件を追うカメラに映ったのは、この国が抱え続ける矛盾と欺瞞だった。 【写真】林眞須美死刑囚から家族へ送られた手紙ほか * * * ■演出された〝毒婦〟のイメージ あいつがやったに違いない――日本中からそう思われた人は、もはや運命に抗うことはできないのだろうか。 1998年7月、和歌山県のある地域の夏祭りで振る舞われたカレーを食べた人たちが、次々と腹痛や吐き気を訴え、67人が救急搬送された。 未成年者を含む4人がヒ素による中毒症状で亡くなったこの「和歌山毒物カレー事件」は、発生から1ヵ月後、ある新聞が「事件前にもヒ素中毒 和歌山毒物混入 地区の民家で飲食の2人」というスクープを打つことで急展開を見せる。 元シロアリ駆除業者の林 健治氏と、その妻の眞須美(現・死刑囚)、さらに4人の子が暮らす家には、連日マスコミが殺到し、家族の一挙手一投足を全国に伝え続けた。 じきに、脚立から塀越しに家の中にレンズを向けるカメラマンや、塀の隙間から差し込まれるマイクの群れに、夫婦はいら立ちを隠せなくなっていく。笑みを浮かべながら報道陣にホースで水をかける林 眞須美の姿は、〝毒婦〟を象徴する映像として、今も語り草だ。 カレー事件とは別の保険金詐欺事件で夫婦が逮捕されるまでの40日間、林家からの中継映像は全国でショーとして消費され、嫌悪と嘲笑と、訳知り顔の論評を巻き起こした。 また、「メディアスクラム」と呼ばれる過熱報道による人権侵害や生活妨害は、ほかの事件でもたびたび繰り返され、その批判から報道ガイドラインも整備されてきたが、まだまだ十分とはいえない。 事件からすでに四半世紀以上が過ぎ、眞須美は死刑囚として今も大阪拘置所に収容されている。〝解決済み〟の出来事への関心はすっかり薄れ、彼女が存命であることを知る人のほうが、むしろ少数かもしれない。 そんな過去の事件を、カメラを手にひとりで追いかけたのが、テレビで数々のドキュメンタリー作品を手がけてきた二村真弘監督だ。二村監督にとって、今作『マミー』は初の映画監督作品となる。 「林さんのご長男が2019年に『もう逃げない。』(ビジネス社)という著書を出されて、新宿でトークショーを開催されると聞き、『林 眞須美の長男ってどんな人なんだろう』とやじ馬根性で見に行ったんです。 死刑囚の息子としての壮絶な人生が主なテーマだったのですが、それ以上に、事件に冤罪の可能性があるということに驚きました。眞須美さんが今も無実を訴え続け、弁護団による再審請求が行なわれていることも、それまではまったく知りませんでした」 トークショーの冒頭では、「冤罪の可能性を追求するドキュメンタリー番組の取材でイベントの様子を撮影する」と伝えられた。 ところがその半年後、その番組の放映がなくなったことを耳にし、二村監督は長男にコンタクトを取る。長男は番組スタッフから「死刑が確定している裁判の冤罪可能性を検証する番組は放送できないと、局の上層部からストップがかかった」と説明されたそうだ。 「それを聞いて、じゃあ僕がやろうと思ったんです。冤罪を信じるかどうかではなく、その可能性があるのに検証をしないのは、メディアが自身の役割を放棄しているとしか思えませんでした」